asperity

アスペリティ(英: asperity)は、地震学者の Thorne Lay と金森博雄が1980年に提唱[1]した概念である。

もともとの英語では物体表面の粗さを表現する言葉であるが、地震学において統一的で明瞭な定義がされた用語ではなく、複数の概念を持つ用語として使用されているため、文献によって使われ方が異なり混乱を招いている[2]。

例えば、弘瀬冬樹らは3通りのニュアンスの用語として使用している[3]。

断層面中の突起
破壊強度の大きな領域
地震時の単位面積あたりのモーメント解放量が大きな領域[2]。
また、山中佳子、菊地正幸らは、断層面で通常は強く固着しているが、地震時に大きくずれ動く領域[4]との概念で使用している。

南海トラフの巨大地震モデル検討会[5]では、『強い強震動を発生させる領域』と『断層すべりの大きな領域』[6]とする定義を用いていたが、誤解を避けるため下記の様に替わる用語定義をおこなった。

強震動生成域
震度分布を評価するための断層モデルに使用する用語で、断層面のなかで特に強い地震波(強震動)を発生させる領域を言う。断層面のその他の領域は、従来と同様、強震動生成域の背景領域と言う。
大すべり域、超大すべり域
大すべり域は、津波を評価するための断層モデルに使用する用語で、断層面のなかで大きく滑る領域を言う。その中でも特に大きく滑る領域を、超大すべり域と言う。断層面のその他の領域は、津波背景領域と言う。

プレート境界面では、プレート同士が普段から安定して滑らかにすべる「安定すべり領域」と圧力によって密着固定されすべりにくい「固着域」があり、アスペリティはこの場合において後者の固着域を指している。この固着域において歪みが蓄積されていき、プレートの耐力の限界に達し一気にすべることでプレート間地震が発生する[7]。

2つのプレートが接する場所では、異なる運動をしているプレート同士の境界にひずみが蓄積し、地震が起こる。このようなタイプの地震をプレート間地震、プレート境界地震あるいはプレート境界型地震と呼ぶ[27]。

プレート同士の境界は、収束型(海溝と衝突型境界に細分される)、発散型、すれ違い型(トランスフォーム断層)の3種類に分けられる。発散型やすれ違い型は、地震が起こる範囲がプレート境界の周辺だけに限られ、震源の深さもあまり深くない。一方、収束型のうち海溝はしばしば規模の大きな地震を発生させ、衝突型は地震が起こる範囲が広く震源が深いことも多い。

海溝型地震
英名はMegathrust earthquakeがこの海溝型地震に近いニュアンスで使われている。海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込んでいる海溝やトラフなどの沈み込み帯では、両者の境界が歪みを受けて地震が起こる[27]。これを海溝型地震と呼ぶが、「海溝型地震」は海溝付近のプレート内部の地震を含める場合があるため、狭義に「海溝沿いのプレート間地震」と呼ぶ場合もある。ばねのように弾性力を蓄えた大陸プレートが跳ね返るというように解説されることがあるが、プレートが引き剥がされるわけではなく、他の地震と同様に2つの地殻面がずれる形で跳ね返る。1923年の大正関東地震や想定される南関東直下地震のように、海溝から離れた深いところにまで震源域は広がっている。
陸側のプレートが海側のプレートに衝上する低角逆断層型となるのが典型的[27]。上から見ると、海溝の最深部をつないだ線である海溝軸よりも大陸プレート寄りの部分が震源域となる。1つの細長い海溝の中では、いくつかの領域に分かれて別々に大地震が発生する。地震の規模はM7 - 8と大きくなることがままあり、稀に複数の領域が同時に動いて後述のようにM9を超える超巨大地震となるケースもある。1つの領域では、およそ数十から数百年ほどの周期で大地震が繰り返し発生する。規模が大きい海溝型地震が海洋の下で発生した場合、津波が発生することがある。震源域が広く規模が大きいため、被害が広範囲にわたることがある。
発生しやすい場所は、チリ、ペルー、メキシコ、アメリカのアラスカ、アリューシャン列島や千島列島、日本、フィリピン、インドネシアパプアニューギニアソロモン諸島、フィジー、トンガ、ニュージーランドなどの沖合いや海岸付近である。いずれも沿岸に海溝があり、大きな海溝型地震が発生する。
2004年にジャワ海溝で発生したスマトラ島沖地震も海溝型地震である。また日本近海では、十勝地方の沖合で繰り返し発生している十勝沖地震(2003年9月の地震はMw8.3、最大震度6弱)や同じく根室半島沖で繰り返し発生している根室半島地震など千島海溝における地震、2011年3月に三陸沖の日本海溝で発生した東北地方太平洋沖地震(Mw9.0、最大震度7)に加え、同海溝付近で繰り返し発生している三陸地震、近い将来にその発生が指摘され以前より地震観測網による監視体制が敷かれる駿河トラフにおける東海地震南海トラフにおける東南海・南海地震、それらの地震震源域)が連動することで超巨大地震となる可能性も想定されている南海トラフ巨大地震などが海溝型地震の例として挙げられる。さらに関東大震災の原因となった前述の関東地震(M7.9)も相模トラフのプレート境界がずれ動いたことによって発生した地震(「相模トラフ巨大地震」も参照)であり、海溝型地震に含まれる。
前述のスマトラ島沖地震東北地方太平洋沖地震、過去に幾度も発生した南海トラフの巨大地震では、複数震源領域で短時間のうちに断層(プレート境界面)の破壊が起きる連動型地震となったため、広範囲における大規模な地震に発展している。また、大きな海溝型地震の後にはその震源域から離れた場所で内陸地殻内地震や海洋プレート内地震、または他の海溝型地震を誘発することがある(誘発地震)。
さらに、プレート境界のうち海溝寄りの浅い領域ではしばしば津波地震が発生する。東北地方太平洋沖地震では深い領域と浅い領域が連動して破壊されたため、強い揺れと大きな津波が同時発生したとされている[33]。
海溝型地震に伴うプレート境界面のずれが表面にまで達した海底断層が生じ、主断層の他に平行して複数の分岐断層がみられることがある。東北地方太平洋沖地震では海底活断層やプレート境界面に沈み込んでいる海山が地震の発生に関係した可能性が指摘されているが[34][35][36]、研究途上である。
衝突型境界で起こる地震
衝突型境界では、プレート同士が激しく衝突し合い、境界部分では強い圧縮の力が働いて地震が発生する。強い力によってプレートが砕け、その破片同士がずれたり、付加体がずれたりして地震が起こる。
大陸プレート同士が押し合い衝突しているヒマラヤ山脈パミール高原チベット高原日本海東縁部などが主な発生地である。
1999年9月の台湾集集地震 (Mw7.6) などがある。日本付近での例は、日本海東縁変動帯域を震源とする地震で、1983年5月の日本海中部地震(M7.7、最大震度5)、1993年7月の北海道南西沖地震(M7.8、最大震度6)など。
発散型境界で起こる地震
発散型境界でも地震が起こる。大洋を縦断する中央海嶺の中軸谷の下で発生するものは海嶺型地震と呼ばれる。震源の深さは概ね12kmより浅く、地震の規模はM6を超える事がほとんどない。発震機構を見ると張力軸が水平かつ海溝に直角で、正断層型のものが典型的[27]。
東太平洋海嶺、オーストラリア南極海嶺、中央インド洋海嶺、南西インド洋海嶺、大西洋中央海嶺など各地の海嶺で地震が発生する。アイスランドやアフリカの大地溝帯では、陸上にある海嶺(地溝)の影響で正断層型の地震が発生する。
すれ違い型境界(トランスフォーム断層)で起こる地震
トランスフォーム断層では、プレートのすれ違いによって地震が起こる。多くは海嶺周辺の海底で起こるが、陸地で起こるものもある[27]。
主な発生地には、アメリカ西海岸のサンアンドレアス断層、ニュージーランドアルパイン断層[27]、トルコの北アナトリア断層などがある。
発生例としては、1906年4月のサンフランシスコ地震 (M7.8) などが挙げられる。