マグネシウム

周期表第2族元素の一種で、ヒトを含む動物や植物の代表的なミネラル(必須元素)であり、とりわけ植物の光合成に必要なクロロフィルで配位結合の中心として不可欠である。また、有機化学的にはグリニャール試薬の構成元素として重要である。

酸化マグネシウムおよびオキソ酸塩の成分としての酸化マグネシウムを、苦い味に由来して苦土(くど、bitter salts)とも呼称する。

酸化数はほぼ常に2価。比重1.74の柔らかい金属で、融点 650 ℃、沸点 1090-1110 ℃(異なる実験値あり)。結晶構造は六方最密充填構造 (HCP)。

酸素と結合しやすく強い還元作用を持つ。空気中で放置すると、表面が酸化され灰色を帯びる。また、二酸化炭素、水、亜硫酸とも反応するが、いずれも不動態皮膜となるためアルカリ金属やカルシウムと異なり腐食は進行せず、鉱油中で保存する必要はない。

空気中で加熱すると炎と強い光を発して燃焼する(燃焼熱は601.7 kJ/mol)。 さらに窒素や二酸化炭素中でも燃焼し、それぞれ窒化マグネシウム (Mg3N2)、酸化マグネシウム(生成熱は460.7 kJ/mol)となる。

CO
2
+
2
Mg

2
MgO
+
C
{\displaystyle {\ce {{CO2}+{2Mg}->{2MgO}+C}}}
熱水や塩水、薄い酸には容易に溶解し水素を発生する。このため、マグネシウム火災の消火には水は使えず[3][4]、ダライ粉などを用いる[5]。

2
H
2
O

+
Mg

Mg
(
OH
)
2

+
H
2

マグネシウムベリリウムは第2族元素だが、アルカリ土類金属ではない。これは第1族元素である水素がアルカリ金属ではないのと同様、化学的性質が異なるためである。ただし全く異なるわけではなく、第2族元素の代名詞として「アルカリ土類金属」の名が使われているため、広義にはアルカリ土類金属に含まれている。

アルカリ土類金属とはカルシウム・ストロンチウムバリウム(およびラジウム)に共通の化学的性質に由来するグループで、周期表に基づく族分類に先立って成立した。マグネシウムアルカリ土類金属とは違う性質を持つ。

化合物が炎色反応を示さない(アルカリ土類金属は特有の発色を持つ)。
単体(粉末状を除く)が常温の水と反応しない(アルカリ土類金属は激しく反応して水素を発生する)。
常温空気中で表面に酸化不動態を形成する(アルカリ土類金属は内部まで急速に酸化される)。
硫酸塩が易水溶性(アルカリ土類金属は難水溶性)。
水酸化物が難水溶性で弱塩基性を示す(アルカリ土類金属は易水溶性で強塩基性)。
水酸化カルシウムは比較的水に溶けにくいが、それでも水酸化マグネシウムよりは溶けやすい。

マグネシウムベリリウムと共通した化学的性質を持つが、違いもある。

陽性が強い。ベリリウム化合物は共有結合性のものが多いのに対し、マグネシウム化合物は幾分共有結合性を帯びるものの依然イオン結合性のものが多い。
塩基性が強い。ベリリウムは両性元素であるため酸にもアルカリにも溶けるが、マグネシウム塩基性が強いため酸には溶けるがアルカリには溶けない。

マグネシウムの結晶構造は室温では2つの面でしか滑りを起こさないため、純マグネシウムや合金を加熱せずに圧延などの加工をすると割れが発生しやすい。加工には加熱が必須となるが燃焼しないよう注意を払う必要がある。

マグネシウムは安定な酸化物を作るため、ラボアジエはマグネシア(酸化マグネシウム)を元素としてあげている。1755年、スコットランドのジョゼフ・ブラックは炭酸マグネシウムを熱分解し、酸化マグネシウム二酸化炭素に分離しているが、これをマグネシウムの発見とする事もある。

単離され金属元素であることが証明されたのは、1808年、ハンフリー・デービーによるマグネシアと酸化水銀の溶融電気分解による。マグネシア magnesia またはその語源である産地のギリシャ・マグニシア県にちなんで命名された。

商業生産は1886年、アルミニウムと同時期に開始されたものの、精錬(カルシウムと)が困難で普及が遅れた。第一次大戦を契機に軍事利用が伸び、1936年には軍事目的を陰に五輪の聖火リレーに利用され、1939年には32,850トン、1943年のアメリカで184,000トンが生産されている。日本では第二次大戦前から1994年まで宇部興産により生産されていた。マグネサイト等の鉱石資源は、中国、北朝鮮、ロシアの3国で6割以上を占めている[6]。

非常に軽い軽合金材料として重要であり、金属マグネシウムとして様々な合金の第一金属(合金の基本となる金属)や、添加剤に利用される。 また、反応性の高さから脱酸素剤や脱硫剤、さらに有機合成用試薬として欠かせない。 必須元素であり、食品や医薬品のほか、飼料、肥料として広く用いられる。

合金 - 優れた性質を持ち、需要が伸びている。安価になればプラスチックを代替する可能性もある。
工業的に使用されている最も軽い金属で用途は広く、航空機、自動車、農業機械、工具、精密機械、スポーツ用具、スピーカーの振動板、携帯用機器の筐体、医療機器、宇宙船、兵器などの多種にわたる。かつて問題だった腐食しやすい性質が改善されるにつれ、利用されるようになっていった。
合金添加剤 - 1998年頃には世界需要の半数近くを占めた[7]。アルミニウム合金などに添加元素として少量付加するだけであっても、その合金としての性質を大きく左右する働きを持つ。この性質から、これまでの合金の硬度、強度、耐食性、耐熱性、その他機械的性質を向上させるための研究が活発に行われている。
鋳鉄 - ダクタイル鋳鉄 (FCD) の黒鉛ノジュラー(球状)化剤。
鉄鋼脱硫剤 - 合金用途以外では最も消費量が多く、精錬用フェロアロイ(フェロマグネシウム)。
金属還元剤 - ジルコニウム、チタンの製錬。
防食 - 防食マグネとして、金属の犠牲電極効果や、酸化物が使用される。
カメラのフラッシュ - 酸化剤を混合した閃光粉が利用され「マグネシウムを焚く」と表現した。光量調節が難しく換算表に規定の使用量を天秤秤で毎回計量することを必要とし、発光時に大量の煙を発生させ、シャッターとの同調も手作業であるため、閃光電球やエレクトロニックフラッシュによって置き換えられた。
発火用具(ファイアスタータ)- 水に濡れていても発火できるため、軍事用、キャンプ用など。
スピーカーの振動板 - 単体は合金より内部損失が大きく、酸化防止の樹脂コーティングを施して使用される

耐火材 - 炉内耐火材(塩基性耐火煉瓦)として主に電気炉で用いる
吸着材 - 水酸化マグネシウムが多く、酸化、炭酸マグネシウムなども
ゴム、プラスチック配合剤 - 添加剤、充填剤
セラミックス - 原料、焼結助剤
ガラス - 酸化ガラス添加剤
電池 - 空気マグネシウム電池
排煙脱硫剤 - 安価で脱硫効率が高い、水酸化マグネシウム放流法
排水処理 - 石灰と同様、酸性排水の中和(カルシウムが混在したものが使われる)
水質改善 - アオコ対策、赤潮対策、底質改善
重金属処理 - アルカリ剤として不溶化処理、ヘドロなど泥土の固化

2017年1月27日、矢部博士のグループは、出力100Wから数kWのマグネシウム燃料電池を発表した。1ユニットは5.4kWhで、複数台連結して小型発電機並みの出力を実現した。また、燃料を交換することで、何度でも使用でき、まさに将来、リチウムイオン電池に取って代わる燃料電池自動車も射程内になってきた。[32]
2016年10月、本田技研工業と埼玉県産業技術総合センターが世界で初めてマグネシウムを使い、繰り返し充電できる2次電池の実用化にメドを付けたと発表[35]。寿命や安全性でリチウムイオン二次電池と遜色のない水準を維持できる基本データを得ており、2018年の製品化を目指す[35]。マグネシウムの調達コストはレアメタルで高価なリチウムの25分の1程度で済み、電池の容量も大きく小型化しやすい特徴を持つ[35]。

マグネシウムはハロゲン化アルキルと反応し、R-MgX(R は有機置換基、X はハロゲン)の一般式で表される有機金属化合物を作る。これはグリニャール試薬と呼ばれ、カルボニル化合物などと反応して炭素-炭素結合を生成する。このため有機合成分野において重要な試薬として用いられる。

そのほかにもたくさんの錯体・塩基性塩などの化合物を合成する。これらは主に化学実験において、合成試料や試薬として使われる。

肥料 - 水酸苦土肥料、硫酸苦土肥料など
にがり - 主に塩化マグネシウムが、豆腐製造の凝固剤(塩析剤)として
食品添加物 - 膨張剤(炭酸マグネシウム)、栄養強化剤、加工助剤など
医薬品 - クエン酸マグネシウムが大腸検査用下剤など

精製・加工していない食品に広く含まれ、ゴマやアーモンドなどの種実類、ひじきなどの海藻類に多く、加工食品に少ない。

燃焼にて二酸化炭素を発生しない事から、化石燃料に替わる次世代エネルギーとしての利用研究が進められている。

水素に比べて常温・常圧下で固体なので輸送・貯蔵がしやすいというメリットがある。水と反応させて燃えるときの熱を利用する他、同反応により発生する水素を燃料として利用する方法が挙げられる。燃焼後の酸化物のリサイクルのための還元処理が最大の課題であり、レーザーによる高温を利用する方法などが提案されている[8]。

但し、マグネシウムを燃料として使用する場合、燃焼させて熱エネルギーに変換した場合熱機関を利用する以上カルノー効率を超えることは出来ない。また、水と反応させて水素を取り出しその水素を燃焼させる場合や生成した水素を燃料電池で電気エネルギーに変換するという用途も同様に効率が低い。

マグネシウムの持つ化学エネルギーを効率良く電気エネルギーに変換する方法としては電池の陰極としてマグネシウムを使用する方法が効率が良い。但し、水溶液を電解質として使用する場合は反応性が高い為、マグネシウムが水と反応するので不適である。有機系の電解質の使用が望ましい。電解質に溶融塩を使用する選択肢もある。

マグネシウムは3つの安定同位体 24Mg、25Mg、26Mg を持つ。

マグネシウムは植物の光合成色素であるクロロフィルに含まれて、光を受け止める役割を担っている。このためマグネシウムが欠乏すると、植物は生育が減退し、収穫量の減量につながる。これは砂地で生育する植物に特に現れる。カリウムが豊富に含まれる土壌でも、植物へのマグネシウムの供給が行われにくくなることもわかっている。このため肥料として、マグネシウム化合物を含んだものが使用されることがある。

人間の生体内には約25gのマグネシウムが存在し[9]、その50-60%がリン酸塩として骨組織に[9]、残りは血漿赤血球、筋肉中の各組織に存在する。血清中のマグネシウムは、約75-85%がイオンや塩類の形態の透析型で、残りの15-25%はアルブミンなどと結合した蛋白結合型(非透析型)で存在し、その濃度は概ね1.8~2.3程度に維持されている[9]。

マグネシウムは人体にとっても、骨や歯の形成[9]、ならびにリボソームの構造維持やタンパク質の合成、その他エネルギー代謝に関する生体機能に必須な元素であるため、マグネシウムの欠乏は骨粗鬆症、虚血性心疾患、糖尿病などの原因のひとつと考えられている[9]。生体内でマグネシウムは主に骨の表面近くにマグネシウムイオンとして保存され、代謝が不足した場合にはカルシウムイオンと置き換わり、マグネシウムが体内に補充される。マグネシウムの生体内での栄養素や薬理的な働きについては広範にわたって研究が行われているが、いまだその重要な面に関しては不明な点が多い。最近では、ミネラル成分のひとつとしてサプリメントや清涼飲料水などに添加されることが多くなってきている[要出典]。

マグネシウムは動植物に対して毒性の強い元素でないため、植物肥料として過剰使用を特に警戒する必要はないが、動物が直接食物から摂取する場合には、他の無機物(リンやカルシウム)とのバランスを適切にしなければ、尿路結石などの原因になりうることがわかっている。これを受けて、猫用の飼料は、組成中のマグネシウムを減らすように改良されるようになった。

小ガス炎着火試験
目的

消防法に定められる危険物第2類試験方法の「小ガス炎着火試験」により、固体の物品の火炎による着火性を判断します。

装置

無機質断熱板
簡易着火器具
ストップウォッチ
装置概要

小ガス炎着火試験装置の概要図

測定方法

上図のように、10秒間試料に炎を接触させます。
試料が着火するまでの時間を測定し、燃焼を継続(※)するか否かを観察します。
燃焼を継続しない場合には、この操作を10回繰り返します。
※点火してから炎を離した後、10秒経過するまでの間に試料の全てが燃焼し尽くした場合、及び炎を離した後10秒以上継続して燃焼した場合、燃焼を継続したものとします。

測定フロー

小ガス炎着火試験の測定フロー図

判定方法

この試験のうち、一度でも着火し、かつ炎を離した後も有炎燃焼、または無煙燃焼を続けた試料のうち、3秒以内に着火したものを易着火性(第1種可燃性固体)、3秒を超え10秒以内に着火したものを着火性(第2種可燃性固体)とし、これらを危険物とします。
不着火の場合、または燃焼を継続しなかった場合は、危険性なしとします。

着火状態 評価 分類
3秒以内で着火 易着火性 第1種可燃性個体
10秒以内で着火 着火性 第2種可燃性個体
10秒を超えて着火、または燃焼を継続しない 着火性無し 可燃性なし

2014.5.27 08:10
 東京都町田市の金属加工会社「シバタテクラム」の工場火災で、同社が消防当局の指導を無視してマグネシウムの取り扱いを届け出ていなかったことが26日、消防関係者への取材で分かった。その結果、東京消防庁の消防隊は出火直後、工場内のマグネシウムを認識できないまま放水し、爆発的に炎上していたことも判明。同社は市側の指導に従っていなかったことも明らかになっており、度重なる指導無視が被害を拡大させた疑いが強まっている。

 この火災で重体となっていた工場長の千田正記さん(42)=横浜市港北区鳥山町=が同日、全身やけどで死亡。ほかに従業員の男性1人が重体、男女6人が重軽傷を負っている。警視庁は業務上過失致死傷の疑いもあるとみて出火原因を調べている。

 消防関係者によると、今月13日の火災発生時、工場内には少なくともマグネシウム80キロとアルミニウム20キロなどが保管されていたとみられるが、地元の町田消防署への届け出はなかったという。金属材料は、携帯電話やパソコンなどの部品製造に使われていた。

 町田消防署は工場内にマグネシウムなどの危険物があるとの認識がなく、工場前で炎上中の車両に放水したため爆発的に燃え広がった。工場関係者から「マグネシウムを扱っている」との説明を受け、すぐに放水を中止したという。

 結果的に工場1~2階約1300平方メートルが焼け、鎮火までには約38時間かかった。消防関係者は「工場本体には直接放水していないが、飛散した水がマグネシウムにかかった可能性はある。マグネシウム保管の届け出があれば初動対応が違った」と指摘する。

 同社は平成15~16年、同市内の別の場所で操業していた工場で3件のぼやを起こした。いずれもマグネシウムへの引火が原因とみられる。町田消防署は現在の場所に工場を移転後の24年5月に立ち入り検査し、マグネシウムなどの危険物を少量でも保管する場合は届け出るよう指導していた。