2,2,6,6-tetramethylpiperidine 1-oxyl〜1級アルコールを特異的に酸化する。基質が2級アルコールの部位を持っていても、2級アルコール部位とは反応しない。

有機化合物のTEMPO とは、ニトロキシルラジカル (R2N-O•) の一種、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル (2,2,6,6-tetramethylpiperidine 1-oxyl) の略称である。安定な有機フリーラジカルの代表例であり、試薬として市販されている[1][2]。有機合成において、再酸化剤とともに酸化反応の触媒として用いられる。また、ラジカル捕捉剤として、反応系中のラジカル発生を探知するプローブとなる。一般に「テンポ」と読まれる。

TEMPO は1960年、Lebelev と Kazarnowskii により開発された。彼らは 2,2,6,6-テトラメチルピペリジンを酸化し、TEMPO を得た[3]。

TEMPO は有機合成において、1級アルコールをアルデヒドに変える酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムとともに用いられる[4]。

R

C
H
2
O
H
+
N
a
C
l
O
+
T
E
M
P
O
(
c
a
t
a
l
y
s
t
)

R

C
H
O
{displaystyle { m {R'CH_{2}OH+NaClO+TEMPO(catalyst)longrightarrow R'CHO}}}
ヒドロキシ基を酸化する真の活性種は、TEMPO が次亜塩素酸で酸化されて発生する N-オキソアンモニウムカチオン (R2N+=O) である[4]。触媒サイクルの中では、N-オキソアンモニウムカチオンがアルコールを酸化しながら自分は TEMPO に戻り、再び次亜塩素酸により N-オキソアンモニウムカチオンとされる。すなわちこのサイクルで、次亜塩素酸ナトリウムは犠牲試薬、再酸化剤としてはたらいている[4]。この反応の例として、(S)-(−)-2-メチル-1-ブタノールの酸化による (S)-(+)-2-メチル-1-ブタナールの合成を挙げる[5]。

TEMPOは、基本的に1級アルコールを特異的に酸化する。基質が2級アルコールの部位を持っていても、2級アルコール部位とは反応しない[4]。ただし反応条件によっては、2級アルコールを酸化させることも可能である[4]。次亜塩素酸ナトリウムに加えて亜塩素酸ナトリウムも共存させ、1級アルコールをカルボン酸とする手法も知られる。

R

C
H
2
O
H
+
N
a
C
l
O
+
N
a
C
l
O
2
+
T
E
M
P
O
(
c
a
t
a
l
y
s
t
)

R

C
O
2
H
{displaystyle { m {R'CH_{2}OH+NaClO+NaClO_{2}+TEMPO(catalyst)longrightarrow R'CO_{2}H}}}
4'-メトキシフェネチルアルコールを 4'-メトキシフェニル酢酸へと酸化する例を挙げる[6]。

再酸化剤を使うと副反応が起こる場合では、化学当量の TEMPO をあらかじめ系中で N-オキソアンモニウムに変換しておき、そこへ基質を加えて酸化させる。例として、TEMPO の 4-アセトアミド置換体を用いたゲラニオールからゲラニアールへの酸化を挙げる[7]。

東京大学の磯貝明は、TEMPOを用いてセルロースからセルロースナノファイバーを製造することに成功した[8]。

磯貝 明(いそがい あきら、1954年10月19日 - )は、東京大学大学院の教授。静岡市清水区出身。

1980年東京大学農学部卒業。1985年同大学院で農学博士号取得。論文の題は「非水系セルロース溶剤を用いるセルロースエーテル類の調製とそれらの性状に関する研究」[1]。1994年東京大学准教授。2003年より教授。

現在は東京大学大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 製紙科学研究室(磯貝・齋藤・竹内研究室)の教授。

2015年にセルロースナノファイバーの製造技術の開発により、スウェーデンマルクス・ヴァレンベリ賞を受賞[2]。2016年本田賞、2017年藤原賞受賞。

ニトロキシル(HNO/NO-)は、一酸化窒素(NO)の還元形である。HNOとNO-は酸塩基の関係(pKa = 11.4) にある。ニトロキシルはチオールのような求核剤に対して非常に反応性が高く、速やかに二量体化して次亜硝酸(じあしょうさん、hyponitrous acid)に、脱水して亜酸化窒素となる。したがって、硝酸は一般にアンジェリー塩(
Na
2
N
2
O
3
{displaystyle {ce {Na2N2O3}}})やピロティ酸(
PhSO
2
NHOH
{displaystyle {ce {PhSO2NHOH}}})などによって合成される。

ニトロシルには心臓麻痺の治療に使える可能性があり、現在の研究では新しいニトロシルドナーの模索が行われている。研究の一つに[1]、酢酸鉛(IV)によるシクロヘキサノンオキシムの有機酸化での酢酸-1-ニトロソシクロヘキシルの合成がある。

酢酸ニトロソシクロヘキシル
この化合物は、リン酸塩の緩衝剤による塩基性条件下で、ニトロシル HNO、酢酸、シクロヘキサノンに加水分解できる。