負の定スカラー曲率を持つローレンツ多様体

ド・ジッター宇宙(ド・ジッターうちゅう、De Sitter universe)とは、ウィレム・ド・ジッターが解いたアルベルト・アインシュタイン一般相対性理論重力場方程式の三つの解のうちの一つの解であり、密度と圧力がともにゼロで、宇宙項が正の値をとる宇宙である。この解はド・ジッターの名をとってド・ジッター宇宙と呼ばれるようになった。

この模型では、宇宙は空間的に平坦であり、普通の物質を無視し、そして宇宙の力学は宇宙定数により支配されている。この宇宙定数はダークエネルギーに相当すると考えられている。

ド・ジッター宇宙は、普通の物質は含まないが、膨張率Hを決める正の宇宙定数をもつ。宇宙定数が大きいほど、膨張率も大きくなる。

,
比例定数は、慣例に従う。宇宙定数は であり はプランク質量である。

一般に、この解のパッチは、フリードマンルメートル・ロバートソン・ウォーカー計量(FLRW) の膨張する宇宙として示される。スケール因子 は、以下で与えられる。

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定数Hはハッブル定数でありtは時刻 (time) である。FLRWの空間ではスケール因子 は、空間の測定膨張 (en:Metric expansion of space) を示す。

スケール因子の指数関数的膨張は、二つの加速していない観測者は、最終的には、光速より速く離れることを示している。二つの観測者が光速より速く離れる時点になると、観測者はもはや接触することができない。そのため、ド・ジッター宇宙での観測者は、事象の地平面を見ることになる。観測者は、事象の地平面の先は、何も見ることができず、またいかなる情報も取得することはない。もし私たちの宇宙がド・ジッター宇宙に近づいているのなら、私たちはいつか、天の川や重力に束縛されている局部銀河群以外の銀河を観測することができなくなる。[1]

ド・ジッター宇宙は、最初期宇宙における宇宙のインフレーションに応用される。宇宙のインフレーション模型の多くは、ド・ジッター宇宙に近似しており、時間に依存するハッブル定数を与えている。膨張している現実の宇宙ではなくド・ジッター宇宙を使うと、最初期宇宙のインフレーションは、より単純に計算される。ド・ジッター宇宙を利用することにより、膨張は指数関数的となるが、多くの単純化が可能となる。

数学や物理学において、ド・ジッター空間 (de Sitter space) は、通常のユークリッド空間の球面の、ミンコフスキー空間あるいは時空における類似物である。n 次元ド・ジッター空間は dSn と書き、(標準のリーマン計量を持つ)n次元球面のローレンツ多様体での類似である。この空間は、最大の対称性を持ち、正の定曲率を持ち、3 以上の n に対し、単連結である。ド・ジッター空間は反ド・ジッター空間と同様に、ライデン大学天文学の教授で、ライデン天文台天文台長であったウィレム・ド・ジッター (Willem de Sitter) (1872–1934) の名前に因んでいる。ウィレム・ド・ジッターとアルベルト・アインシュタイン (Albert Einstein) は、1920年代にライデンで、宇宙の時空の構造について研究を共にした。

一般相対論のことばでは、ド・ジッター空間は最大対称性を持ち、(正の真空エネルギー密度と負の圧力に対応する)正(反発力)の宇宙定数 を持つアインシュタイン場の方程式の真空解(英語版)(vacuum solution)である。n = 4( 3つの空間次元と 1つの時間次元)では、ド・ジッター空間は物理的な宇宙の天文学的なモデルである。ド・ジッター宇宙(de Sitter universe)を参照。

ド・ジッター空間はウィレム・ド・ジッターにより、また同時に、独立してトゥーリオ・レヴィ=チヴィタ (Tullio Levi-Civita) により発見された。

さらに最近は、ド・ジッター空間がミンコフスキー空間を使うというよりも、特殊相対論の設定として考えられるようになった。その理由は、群縮約(英語版)(group contraction)は、ド・ジッター空間の等長変換群をポアンカレ群へと還元し、凖単純群(英語版)(semi-simple group)というよりも単純群の中へ、時空変換部分群やポアンカレ群のローレンツ変換部分群を統一することを可能とする。この特殊相対論の定式化をド・ジッター相対性(英語版)(de Sitter relativity)と呼ぶ。

ド・ジッター空間は 1以上の次元のミンコフスキー空間の部分多様体として定義することができる。標準的な計量


を持つミンコフスキー空間 R1,n をとると、ド・ジッター空間は一枚のシート


の双曲面により記述される部分多様体である。ここに はある長さの次元を持つ正の定数である。ド・ジッター空間上の計量は、周囲の空間の計量から導かれる。導かれた計量はローレンツ符号を持ち非退化である。(上の定義に加えて、 を と置き換えると、2枚のシートの双曲面を得る。この場合の導かれた計量は正定値であり、それぞれのシートは n-次元双曲空間のコピーである。

ド・ジッター空間は、2つの不定値直交群(英語版)(indefinite orthogonal group)の商空間O(1,n)/O(1,n−1) としても定義される。このことは、この空間が非リーマン的な対称空間(英語版)(symmetric space)であることを示している。

トポロジーとして、ド・ジッター空間は R × Sn−1 である(従って、n ≥ 3 であれば、ド・ジッター空間は単連結である。

ド・ジッター空間の等長変換群(英語版)(isometry group)は、ローレンツ群 O(1,n) である。従って、計量は n(n+1)/2 個の独立なキリングベクトルを持ち、最大対称である。すべての最大対称空間は定曲率を持つ。ド・ジッター空間のリーマン曲率テンソルは、


により与えられる。

リッチテンソルは計量に比例する


ので、ド・ジッター空間はアインシュタイン多様体である。このことは、ド・ジッター空間は、


により与えられる宇宙定数を持つアインシュタイン方程式の真空解であることを意味する。ド・ジッター空間のスカラー曲率は、


により与えられる。n = 4 の場合、Λ = 3/α2 であり、R = 4Λ = 12/α2 である。

ド・ジッター空間へは、静的座標(英語版)(static coordinates) を次のようにして導入することができる。




ここに、 は (n−2)-球面の Rn−1 の中への標準的な埋め込みを与える。 これらの座標では、ド・ジッター計量は、


となる。 には天文学的地平線(英語版)(cosmological horizon)が存在することに注意する。

として、




とすると、 座標では、計量は、

標準計量 を持つ を形成する を考え、




とすると、ド・ジッター空間の計量は、


である。ここに


ユークリッド的な双曲空間の計量である。

で を表すして、



とすると、計量は、


である。

により時間変数を共形時間へ変えると、アインシュタインの静的宇宙に共形同値な計量


を得る。これはド・ジッター空間のペンローズダイアクラムを求めることができる。[要説明]

で を表し、





とすると、計量は、


である。ここに


は開いたスライシングでの曲率 の半径を持つ 次元ド・ジッター空間の計量である。双曲計量は、


により与えられる。

これは、 の下での開いたスライシングの解析接続であり、時間ライクと空間ライクな性質を交換するので、 と を交換する。

 


である。ここに は の上の平坦な計量である。