10〜20歳に多く見られ、日本での罹患者数は約4万人以上。多彩な臨床像を伴うことが多い。 関節症状:関節痛・関節炎(約40%)インフリキシマブ(レミケード®):潰瘍性大腸炎にも適応。

クローン病(クローンびょう、英: Crohn's disease、略: CD)は、主として口腔から肛門までの全消化管に、非連続性の慢性肉芽腫性炎症を生じる原因不明の炎症性疾患で、厚生労働省より特定疾患に指定されている。

潰瘍性大腸炎とともに炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory bowel disease)に分類される。

1932年にニューヨーク大学のマウントサイナイ病院の内科医ブリル・バーナード・クローンらによって限局性回腸炎として報告される[1]。後に病名は改められたが回腸、特に回腸末端から盲腸にかけての回盲部に好発する点は確かである。

10〜20歳に多く見られ、日本での罹患者数は約4万人以上で、潰瘍性大腸炎よりは罹患者数は少なく、中高年での発症はほとんど無い。発症年齢は女性で15〜19歳、男性で20〜24歳が最も多くみられる[2]。

現在でも、クローン病を発症する正確なしくみはわかっていない。遺伝的な素因を持ち、免疫系の異常(主としてマクロファージが腫瘍壊死因子αというサイトカインを分泌して腸壁の正常細胞を傷害すること)がおこり、その上で食事因子などの環境的な因子が関係しているのではないかと考えられている。若年層での発症が顕著であり欧米先進国での患者数が圧倒的に多いため、食生活の欧米化、即ち動物性蛋白質や脂質の摂取が関係しているともいわれる。

欧米では、クローン病のかかりやすさは特にNod2 (IBD1) の機能欠損多型やHLAの多型により強く影響を受けるが、日本人ではNod2との関わりは明確ではない。近年、日本人クローン病とTNFSF15 (TL1A) というサイトカインの遺伝子との関連が報告された。TL1Aは腸管の炎症に関連しているサイトカインで、クローン病の病変部での発現が増加していることがわかっているが、これと遺伝子多型との関連についてはいまだ不明である。

2007年、リバプール大学のJon Rhodes らが、畜牛にヨーネ病と呼ばれる下痢を伴う消耗性疾患を引き起こす細菌であるMycobacterium avium subsp. paratuberculosisが、牛乳やその他の乳製品を経由してヒトの体内に侵入し、クローン病を引きおこしている可能性があるとしている[要出典]が、Mycobacterium の関与を否定する報告もある[3]。

皮膚合併症として脚に紅斑が発生するなどの症状が見られる。本疾患の病変は消化管全域に起こりうるため、その症状は多岐にわたり、それらが断続的にみられることがある。口腔から肛門までの全消化管を侵すが[1]、多くは小腸・回盲部・肛門周囲に好発する。病変部位別に小腸のみに病変のある「小腸型」、大腸のみに病変のある「大腸型」、どちらにも病変のある「小腸・大腸型」に分けられ、小腸・大腸型が多くを占めている。

自覚症状としては、多くの場合「腹痛(約80%)」「下痢(約80%)」が主な症状である。その他高率に見られる症状として「発熱」「体重減少」「肛門病変(痔瘻・裂肛・肛門潰瘍等)」「嘔吐」等があり、潰瘍性大腸炎で多く見られる「血便」はそれほど高頻度ではない。

クローン病は消化管粘膜の全層性の炎症性疾患のため、炎症が激しい状態では消化管の「潰瘍」「狭窄」「瘻孔」(ろうこう)「穿孔」といった変化を生じてくること多く、腸閉塞や消化管穿孔を生じてくる場合は、消化管腸切除等の外科的処置を必要とする場合も多い。

クローン病は消化管以外にも、以下のような多彩な臨床像を伴うことが多い。

関節症状:関節痛・関節炎(約40%)
皮膚症状:結節性紅斑、壊疽性膿皮症[4][5]、Sweet病
眼症状:虹彩

CRP・赤沈が活動性に相関する検査として用いられる。また炎症反応のバイオマーカーとして「便中カルプロテクチン(FC)」・「便中ラクトフェリン(FL)」・TCP-353抗体測定評価を行うこともある。

クローン病では以下の内視鏡所見が特徴とされる。基本的に大腸内視鏡の他に上部消化管内視鏡検査も含めた全消化管検査が行われる。小腸の病変精査に対して小腸内視鏡検査や、またカプセル内視鏡検査も行われるが、狭窄病変があった場合にカプセル停滞となる場合もあるため注意して施行される。

非連続性病変
敷石像
縦走潰瘍
多発性アフタ:自覚症状のあるものとして口腔内アフタが多く見られる
狭窄病変・裂溝・瘻孔病変
竹節状変化:胃の病変においてみられることが多い

X線検査による消化管造影検査においても、上記の内視鏡所見が認められる。小腸の病変が多いため、小腸の病変検索においては内視鏡検査ではなく、消化管造影検査が多用され有用である。

簡便に行われることで粗大変化等のスクリーニングに多用されている。また、近年は3D再構築による「CT MRI-Colonography(疑似内視鏡検査)」検査も行われる。

クローン病の病理所見としては以下が特徴とされる。

非乾酪性類上皮細胞肉芽腫:微小な肉芽腫が多数形成(ただし組織検査での検出率は多くても50%程度)
消化管粘膜の全層性炎症所見:リンパ球浸潤を多く認める炎症像
裂溝形成:リンパ管に伴う組織欠損像
潰瘍病変:粘膜の潰瘍が縦走性に認められる(これに対し腸結核では輪状の潰瘍性病変を生じる)。
飛び石状病変:潰瘍性大腸炎とは異なり非連続性に病変を認める。

基本的に臨床像・消化管像(内視鏡所見・消化管造影所見)・病理所見によって診断される。

特定疾患であり申請により公費助成適応のため、一般的に旧厚生省クローン病診断基準が広く用いられている。

根治することは無く、寛解状態へ導入し維持していくことが治療目標である。治療は、栄養療法(食事療法)や薬物療法といった内科的治療が行われ、消化管狭窄・消化管穿孔等に対して外科的治療が行われる。以前では食事療法と薬物療法の併用が多く行われてきたが、欧米を中心に現在では薬物療法が中心である。

腸管を安静におくことで寛解状態に導入し、炎症が抑えられて症状の改善がみられる。症状が重く消化管からの栄養摂取が行えない場合は、食事制限と併用し高カロリー輸液による栄養補給を行う。食事制限(絶食療法)は、重症例では絶飲食が続くこともあり、しかも寛解維持のためには食事制限は継続的に行わなければならない上に、成分栄養剤を摂取する必要もある。具体的には栄養剤を併用しながら脂質の摂取制限に始まり、肉類の制限や繊維質の食品を避けるように指導される。つまり、抗原性を示さないアミノ酸を主体とする食物と、脂肪量を減らした食物などが中心となる。炎症を起こしにくい食事として一般的には、「低脂肪」、「低残渣」の食事が推奨される。しかし近年では狭窄のない場合に限っては繊維質の制限を行わないこともある。

治療は基本的に寛解維持療法・寛解導入療法共に薬物療法が基本となる。

サリチル酸製剤
 
 
分子標的治療薬
 
 
 
 
 
副腎皮質ホルモン剤ステロイド
 
免疫抑制剤
 


原発性硬化性胆管炎

基本的に外科的治療は行わないが、内科的治療が有効でない強度の狭窄や腸閉塞を起こした場合、同じく穿孔、瘻孔や膿瘍を伴う場合は手術適応となる。その場合においても可能な限り短腸症候群を避けるために切除は最小限に抑えられ、狭窄形成術などが行われる。手術によって病変は取り除かれても再発率は極めて高く、特に術後の再接合部に再発することが多い。

潰瘍性大腸炎と共に炎症発生機序の要点となる白血球または白血球の内の顆粒球を取り除く治療法。

本疾患は寛解期と活動期を繰り返す慢性的疾患であり、現在では完治させることは不可能であるが、直接的に生命にかかわることは少ない。しかし、手術率は発症後5年で33.3%、10年で70.8%と高く、さらに手術後の再手術率も5年で28%と高率であることから、再燃・再発予防が重要である。診断後10年の累積生存率は96.9%。

慢性疾患のため、日常生活を送りながらの闘病となる。また、一般には認知度が高くないため、病気の啓発や理解を進める活動が求められてきた。近年では、患者当事者、支援者が集まりクローン病や大腸性疾患に関して情報交換を行う団体TOKYO IBDや難病支援NPOなど精神的支援が次第に増えてきている。