消防士のジレンマ

「ローラーに巻き込まれる人に手を差し伸べられない」というのが消防士のジレンマだろう。ローラーに巻き込まれた人は死にゆく定めなのかもしれない。ただこちらを向いて助けを求めている人に手を差し伸べられずにいられるだろうか。たとえ最期だったとしても私はその手を摑みたいものだ。私も一緒に巻き込まれてしまうだろう。だが最期に見たものは、最後にその手が摑んだものは私の手であってほしい。そうでなくては私の魂が死ぬのだ。消防士はここで「死にゆく人に巻き込まれてはいけない」と教わる。だがここで私の魂は二つに分かれる。生きるか死ぬかだ。正確にいえば「生きながらにして給料を貰って死んだように生きるか、死ぬか」ということになろう。だが考えてほしい。人の命とローラーだったらローラーの方が安い、と。破壊すべきはローラーの方なのだ。一番ベストな選択としてはローラーを破壊すること、人の部分を除いて。もちろんローラーの停止スイッチを押すこともそうだし、頑強な救助機器をローラーに放り込んで挟むこともできるだろう。ここであなたは「時間を止めてはいけない」あちら側のあなたがこちら側のあなたと寸断されて言い訳を探すような遠回りは金輪際避けてもらいたい。相対論は「私の」≠「my」という意味だ。