ベクトル場内の曲線に沿った粒子の軌跡。下に表示されているのは、曲線に沿って粒子が動いたときに粒子が出会う場のベクトルである。それらのベクトルと軌跡の各点における曲線の接ベクトルとの点乗積の和を取ったものが、求める線積分になる。特に積分路 C が閉経路であるならば、積分は必ず 0 になるため、ベクトル場 F は保存ベクトル場(英語版)と呼ばれる。また、物理学において、このような性質を持つ力の場を保存力と呼ぶ。

数学における線積分(せんせきぶん、英: line integral; 稀に path integral[注釈 1], curve integral, curvilinear integral)は、曲線に沿って評価された函数の値についての積分の総称。ベクトル解析や複素解析において重要な役割を演じる。閉曲線に沿う線積分を特に閉路積分(へいろせきぶん)あるいは周回積分(しゅうかいせきぶん)と呼び、専用の積分記号 が使われることもある。周回積分法は複素解析における重要な手法の一つである。

積分の対象となる函数は、スカラー場やベクトル場などとして与える。線積分の値は場の考えている曲線上での値に曲線上のあるスカラー函数(弧長、あるいはベクトル場については曲線上の微分ベクトルとの点乗積)による重み付けをしたものを「足し合わせた」ものとなる。この重み付けが、区間上で定義する積分と線積分とを分ける点である。

物理学における多くの単純な公式が、線積分で書くことによって自然に、連続的に変化させた場合についても一般化することができるようになる。例えば、力学的な仕事を表す式 W = F⋅sから曲線 C に沿っての仕事を表す式 W = ∫CF⋅ds を得る。例えば電場や重力場において運動する物体の成す仕事が計算できる。

n 次元実多様体 M の領域 Ω を考える。局所的には Ω ⊂ Rn と考えることができる。Ω 内の滑らかな曲線 γ: I → Ω が r = γ(t) = (γ1(t), γ2(t), …, γn(t)) で与えられているとき、s = s(t) が γ の弧長変数であるとは、それが線分 γ に沿って端点から測った γ の弧長を与えるものであることを言う。いま γ はなめらかであるから、その弧長は区間 I = [a, b] 上の各点 t0 に対して


で与えられる。特に s は


を満たすが、これはパラメータ t の取り方に依らず定まることに注意すべきである[1]。記号的には


に r = γ(t) を代入することで得られる。この dsを γ の線素(せんそ、line element)と呼ぶ。曲線が区分的に滑らかなら、微分可能な区間の和にわけて同じく弧長を定義することができる。

定性的には、ベクトル解析における線積分は、与えられた場の与えられた曲線に沿っての全体的な効果を計るものと考えることができる。より厳密に言えば、スカラー場上の線積分は、特定の曲線によって曲げられた場の下にある領域の面積と解釈できる。これは z = f(x, y) で定義する曲面と xy-平面上の曲線 C を使って視覚的に見ることができて、f の線積分は曲線 C の真上にある曲面上の点で切り取るときにできる「カーテン」の面積になる[2]。

スカラー場 f : U ⊆ Rn → R の滑らかな曲線 [a, b] ∋ t ↦ γ(t) = (γ1(t), γ2(t), …, γn(t)) に沿った各軸方向の線積分


で与えられる[3]。

このとき、函数 f を被積分函数 (integrand)、曲線 C を積分領域 (domain of integration) あるいは積分路 (path) と呼ぶ。

スカラー場 f : U ⊆ Rn → R の滑らかな曲線 C ⊂ U に沿った線素に関する線積分


と定義する(区分的に滑らかの場合は、滑らかな区間ごとの積分の和と定める)。ただし、r: [a, b] → C は、r(a) と r(b) が与えた曲線 C の両端点となるような、C の勝手な全単射媒介表示とする。

記号 ds は直観的には弧長の無限小成分としての線素と解釈できる。スカラー場の曲線 C に沿った線積分は、C の媒介表示 r の取り方に依らない。

上記の如く f, C を定め、C の媒介表示 r を取れば、スカラー場の線積分はリーマン和として構成することができる。区間 [a, b] を長さ Δt = (b− a)/n の n-個の小区間 [ti−1, ti] に分割し、曲線 C上に各小区間に対応する標本点 r(ti) をとる。標本点の集合 {r(ti) | 1 ≤ i ≤ n} に対して、標本点 r(ti−1) と r(ti) を結んでできる線分の集まりによって曲線 C を近似することができる。各標本点の間を結ぶ線分の長さを Δsi と書くことにすれば、積 f (r(ti))Δsi は、高さと幅が f&(r(ti)) と Δsi で与えられる矩形の符号付面積に対応する。それらの総和を取って、分割の各小区間の長さを 0に近づける極限


を考えるとき、曲線上の分点間の距離は


と書けるから、これを代入して得る


は、積分


に対応するリーマン和である。基本的にこの積分は、x = u(t) および y = v(t) となる制約条件下でスカラー函数 z = f(x, y) の下にある領域の面積になっている。

ベクトル場 F: U ⊆ Rn → Rn の r の向きへの区分的に滑らかな曲線 C ⊂ U に沿った線積分


と定義される。ただし、"⋅" はベクトルの内積であり、r: [a, b] → C は、r(a) と r(b) が曲線 Cの両端点となる C の全単射媒介表示とする。

従ってスカラー場の線積分は、各ベクトルが常に積分路に接するようなベクトル場の線積分に一致する。

ベクトル場の線積分は、絶対値に関しては媒介変数 r の取り方に依らないが、向きに関しては依存する。特に、媒介変数の向きを逆にすれば、線積分の符号が変わる。

ベクトル場の線積分も、スカラー場の線積分の場合とよく似た方法で導ける。ベクトル場 F、曲線 C、媒介表示 r(t) は上記の如くとして、リーマン和を構成しよう。区間 [a, b] を長さ Δt = (b − a)/n の n-個の小区間に分割し、i-番目の小区間から標本点 ti を取って、曲線上の分点 r(ti)を考える。ここでは分点間の距離を足し合わせるのではなくて、分点間の変位ベクトル Δsi を足し合わせる。前と同じく、F を放射曲線上の各点で評価して、それと曲線 C の各小片での Fの無限小寄与を与える変位ベクトルとの点乗積をとったもの全て和の、分割のサイズを 0 にする極限


を考える。曲線上の隣り合う分点の間の変位ベクトルは


と書けるから、代入してリーマン和


を得、これにより上記の線積分が定まる。

ベクトル場 F が何らかのスカラー場 G の勾配として


と書けるとき、G と r(t) との合成の導函数


は、F の r(t) 上の線積分の被積分函数である。従って、積分路 C を与えれば


が成り立つ。言い換えれば、F の C 上の積分は、点 r(b) および r(a) 上の G の値のみに依存し、それらを結ぶ積分路の取り方に依らない。特に積分路 C が閉経路であるならば、積分は必ず 0 になるため、ベクトル場 F は保存ベクトル場(英語版)と呼ばれる。また、物理学において、このような性質を持つ力の場を保存力と呼ぶ。

このことから、保存ベクトル場の線積分は経路独立 (path independent) あるいは「積分経路に依らない」と言う。

この線積分は物理学でよく用いる。たとえば、ベクトル場 F で表す力場の内側で曲線 C に沿って運動する粒子の成す仕事を F の C 上の線積分で表す。

積分複素解析における基本的な道具である。U を複素数平面 C の開集合、γ: [a, b] → Uを有限長曲線(英語版)とすると、函数 f: U → Cの線積分


は、区間 [a, b] の a = t0 < t1 < ⋯ < tn = b への細分を考えて得るリーマン和


の、小区間の幅を 0 に近づける極限として定義する。

γ が連続的微分可能な曲線ならば、この線積分の値は実変数函数積分


として評価することができる[4]。弧長に関する線積分も同様に


と定義できる[5]。これら二種類の線積分について、特に


が成り立つ。

複素函数の線積分を計算する方法はいろいろある。例えば、複素函数を実部と虚部に分けて考えれば、2 つの実数値線積分を計算する問題に帰着できる。コーシーの積分公式を用いて計算する方法もある。後者は複素線積分の被積分函数が、その積分路を含む領域内で解析的かつ特異点を含まないならば、その線積分の値は単に 0 になるというコーシーの積分定理からの帰結である。留数定理はコーシーの積分定理の一般化である。この定理は複素平面内の周回積分によって実函数(実変数実数値函数)の積分を計算するために、しばしば用いる。

複素函数 f(z) = 1/z と閉路 C として 0 を中心とする単位円を 1 から反時計回りに一周するもの考える。C は eit (t ∈ [0, 2π]) と媒介変数表示できるから、代入して


を得る。上記の積分はコーシーの積分公式を用いても同じ計算結果が得られる。

複素平面 C を実 2 次の空間 R2 と見なせば、二次元ベクトル場の線積分は、対応する複素函数の共軛の線積分の実部に対応する。すなわち、x, y 軸方向の単位ベクトル j, k を用いて、r(t) = x(t)j + y(t)k および f(z) = u(z) + iv(z) と置くと


なる関係式が、右辺の 2 つの積分がともに存在することから言える。ただし C の媒介変数表示 z(t) は r(t) と同じ向きを持つようにとる。同じことだが、微分形式として見れば f(z)dz は


と書くことができて、これと共軛複素積分[6]


をあわせて考えれば、ベクトル場としての線積分と面積分を考えることができる。

複素正則函数がコーシー=リーマンの方程式を満たすことから、正則函数の共軛に対応するベクトル場の回転は 0 になる。これはどちらの種類の線積分でもそれが 0 になるときのストークスの定理と関連がある。すなわち、ガウス=グリーンの定理を適用すれば複素関数の面積分は、その領域の境界上の線積分に帰着されるため、複素関数積分では線積分が本質的である。特に正則関数 f の単純閉曲線 γ 上の閉路積分に関するコーシーの定理


は、γ を境界 ∂D とする領域 D でのグリーンの定理にコーシー・リーマンの関係式を代入することに対応する。

 

 

電子のような電荷を持つ粒子が、空間の電磁場のない領域において電磁ポテンシャルの影響を受ける

アハラノフ=ボーム効果(アハラノフ=ボームこうか、英: Aharonov–Bohm effect)は、電子のような電荷を持つ粒子が、空間の電磁場のない領域において電磁ポテンシャルの影響を受ける現象である。アハラノフ=ボーム効果の名は、1959年にその存在を指摘した[1]ヤキール・アハラノフとデヴィッド・ボームに因み、両名の頭文字を取ってAB効果(英: AB effect)と略記されることもある。また、ときにアハラノフの名はアハロノフとも綴られる。

アハラノフ=ボーム効果は、電荷を持つ粒子に対するハミルトニアンが電磁ポテンシャルを含むことと、シュレーディンガー方程式などの量子力学における基本方程式がゲージ変換に対して不変であることに関係している。ハミルトニアンが電磁ポテンシャルを含むことは古典論における解析力学からの結果であり[2]、また量子力学においては、正準量子化の方法を経て量子力学古典力学と対応するための要請である[3]。ゲージ変換に対する不変性については、古典的な電磁気学におけるマクスウェル方程式がゲージ変換不変であることからの要請である[4]。アハラノフ=ボーム効果はこれらの古典論からの要請を量子力学に適用した場合に現れる量子効果であると言える。

アハラノフ=ボーム効果は量子力学の研究において理論的に示された現象であり、古典的な電磁気学が成り立つ範疇においては、アハラノフ=ボーム効果は現れない。このことは、電磁気論における基本方程式であるマクスウェル方程式が電磁ポテンシャルに対するゲージ変換について不変であり、同じ電磁場を与える電磁ポテンシャルの選び方には任意性があることに端的に示されている。

量子力学において、シュレーディンガー方程式が古典論からの要請を満たすように、ゲージ変換された電磁ポテンシャルに対するシュレーディンガー方程式が元の電磁ポテンシャルに対する方程式に一致するためには、電磁ポテンシャルに対する変換だけでは不十分であり、波動関数の位相部分もまた変換されなければならない[4]。しかしながら、ゲージ変換に対する波動関数の位相の変化は変換される波動関数の全体にかかり、確率密度やその流れの密度を記述する上では、波動関数の位相そのものは影響を及ぼさない[4]。

ゲージ変換によって現れるゲージ関数は、ゲージ変換によって得られた新たな電磁ポテンシャルの内容を含んでいる。特に、磁場のないような系を考えると、磁場はベクトルポテンシャルの回転によって与えられるので、この場合にはベクトルポテンシャルはゲージ関数の勾配によって与えられる[5]。従って、磁場のない系におけるゲージ関数はベクトルポテンシャルの線積分によって表される。ここで、異なる経路を通る粒子に対する波動関数を考えると、ゲージ関数はそれらの経路に依存するから、はじめにそれぞれの波動関数の位相が揃っているものとすれば、それぞれの波動関数の間には経路上のベクトルポテンシャルに依存した位相差が生じることになる。重ね合わせの原理によって、系全体の波動関数はそれぞれの経路を通る波動関数の足し合わせとして表されるから、経路が重なり合う場所においては波動関数の干渉が生じる。これは実際に観測され得ることであり、量子力学に特有な現象である。このような現象をアハラノフ=ボーム効果と呼ぶ。

アハラノフとボームの指摘以来、長らく検証実験が試みられたが確かな証拠が得られないまま、その存在に懐疑的な意見もあったが、1986年、外村彰により電子線ホログラフィーの手法を用いて、その存在が実証された。

それまで実験が困難だった原因は一つに、磁場や電場が完全に存在しない条件を満足することが困難だったことがある。それまでの実験では有限の長さのコイルが使用されたが、この場合コイルに端が存在し、そこからの磁場の漏れによる影響が無視できなかった。コイルをドーナツ状(リング状)にすれば、理想的には磁場は漏れ出さないが、電子線の波長の要請から、それは非常に微細(数マイクロメートルオーダー)にする必要があった。

外村の検証実験では、非常に微細なドーナツ状の磁石(ドーナツ内に磁場が存在)を超伝導体で取り囲み、超伝導転移温度以下にしておく。このため、マイスナー効果により当該磁石の磁場は、ドーナツ外部に漏れ出すことを完全に防ぐことができる。この状態で、電子線をそれぞれ、そのドーナツ状の部分の孔の中と、ドーナツ状磁石の外側とに通し、各々の位相の差を、前述の電子線ホログラフィーを使って干渉縞の形で観測した。観測の結果、2つの場合の間にπ(半波長)だけの位相差が存在し、磁場が完全にない状態で、電子線が電磁ポテンシャル(この場合は、ベクトルポテンシャル)の影響を受けていることが実証された。

歪対称化可能 (skew-symmetrizable)

線型代数学において、交代行列(こうたいぎょうれつ、英: alternative matrix)、歪対称行列(わいたいしょうぎょうれつ、英: skew-symmetric matrix)または反対称行列(はんたいしょうぎょうれつ、英: antisymmetric matrix, antimetric matrix[1]; 反称行列)は、正方行列 Aであってその転置 A⊤ が自身の −1 倍となるものをいう。すなわち、転置に対して反対称性を持つ行列は交代行列である。交代行列とは逆に、転置に対して対称な行列は対称行列と呼ばれる。[注釈 1]

例えば行列


は交代行列である。

交代行列と類似の反対称性を持つ行列として、歪エルミート行列がある。これはエルミート共役(転置複素共役)に対して反対称である。また、エルミート共役に対して対称な行列はエルミート行列と呼ばれる。実数の行列に対してはエルミート共役も転置も同じ操作になるので、実交代行列は実歪エルミート行列でもある。

交代行列は自身の転置が行列の反元になるものをいうが、自身の転置が乗法逆元、すなわち逆行列になる行列を直交行列という。また、エルミート共役が逆行列になる行列をユニタリー行列という。

n-次正方行列 A = (aij) が歪対称(skew-symmetric)あるいは交代的 (alternative) であるとは、以下の関係


を満足するときに言う。成分を用いない形では、Rn の標準内積を 〈,〉 と書けば、n×n-実行列 A が歪対称であるための必要十分条件


を満たすことである。これはまた、交代的であるための必要十分条件


が成り立つことであるとも言い表せる[注釈 1]。

歪対称行列の和およびスカラー倍は再び歪対称である。したがって、n-次歪対称行列の全体 Skewn はベクトル空間を成す。交代行列の主対角成分は必ず 0 であり、上三角成分を決めれば下三角成分はその符号反転として定まるから、ベクトル空間 Skewn の次元は n(n − 1)/2 である。

任意の n-次正方行列 M に対し、その歪対称成分 (skew-symmetric component) は[注釈 2]


で与えられる。行列の和への分解


は一意的に定まり、ベクトル空間の直和分解


を与える(ここに Matn は n-次正方行列の全体、Symn は n-次対称行列の全体)。

A を n×n 交代行列とすると、A の行列式


を満足する。特に n が奇数ならばこれは 0 に等しい。この結果はカール・グスタフ・ヤコビに因んでヤコビの定理と呼ばれる[2]。

偶数次元の場合はもっと興味深い結果がある。次数 n が偶数であるときの A の行列式は A の成分に関する斉次多項式(代数形式)の完全平方式


として書くことができる[3]。ゆえに、実交代行列の行列式は常に非負である。ここで現われた形式 Pf(A) は A のパフ多項式(パフ式、パフ形式)と呼ばれる[4]。

交代行列の固有値は常に ±λ のような対として得られる(奇数次の場合に、0 を固有値に加えて考えることもあるが、ここでは除いている)。実交代行列の非零固有値はすべて純虚数であり、それらを ±iλ1, ±iλ2, …(各 λk は実数)の形に書くことができる。

実交代行列は正規行列(つまり、自身の随伴と可換)であり、それゆえスペクトル論の対象として任意の実交代行列がユニタリ行列によって対角化可能であることを述べることができる。実交代行列の固有値複素数となるから実行列によって対角化することはできないが、それでも適当な直交変換によって区分対角化することができる。特に、任意の 2n-次交代行列は直交行列 Q と行列

(ただし、λk は実数)を用いて A = QΣQ⊤ の形に書くことができる。ここで直交行列とは Q⊤= Q−1 を満たす行列 Q のことである。行列 Σ の非零固有値は ±iλk である。奇数次の場合には、Σ は必ず少なくとも一つの行か列が全て 0 になる。

任意の体 K 上の n-次元ベクトル空間 V において、V の基底を固定すれば、V 上の双線型形式φ は適当な n×n-行列 A によって φ(v,w) := v⊤Aw と表されることを思い出そう。

V 上の双線型形式 φ: V × V → K が

交代形式であるとは、非零ベクトル v を任意として交代性: φ(v,v) = 0 を満たすことを言う。
歪対称形式であるとは、ベクトル v, w を任意として歪対称性: φ(v, w) = −φ(w, v) を満たすことを言う。
V 上の交代形式(resp.歪対称形式)は、基底を一つ固定すれば、交代行列(resp.歪対称行列) A を用いて上記の形に表され、逆に Kn 上の交代行列(resp.歪対称行列) A は交代形式(resp.歪対称形式)(v,w) ↦ v⊤Aw を定める。[注釈 1]

A が交代的ならば、任意の実ベクトル x に対して x⊤Ax = 0 が成り立つ。実際、x⊤Ax はスカラー値ゆえ転置と自身とが一致するが、同時に積の転置法則と A の交代性から


が成り立つ。またこの逆も成り立つ。実際、Aが交代的でないならばその対称成分が 0 でない固有値 λ を持ち、λ に属する正規化された固有ベクトルを v とすれば v⊤Av = λ が成立する。

交代行列の全体は、直交群 O(n) の単位元における接空間を成す[5]。この意味で、交代行列を無限小回転 (infinitesimal rotation) と考えることができる。別な言い方をすれば、交代行列全体の成すベクトル空間はリー群 O(n) に付随するリー環 o(n) に一致する。この空間におけるリー括弧積は交換子


で与えられる。二つの交代行列から得られる交換子がふたたび交代行列となることを確かめるのは難しくない。

交代行列 A の指数函数


は直交行列である。リー環の指数写像の像は常に対応するリー群の単位元を含む連結成分に含まれる。リー群 O(n) の場合にはこの連結成分は行列式が 1 の直交群全体の成す特殊直交群SO(n) である。ゆえに R = exp(A) の行列式は +1であり、行列式が 1 の直交行列はすべて交代行列の指数函数として書けることがわかる。

より内在的に述べれば、ベクトル空間 V 上の歪対称線型変換は適当な内積に関して、V 上の二重ベクトル(英語版)(これは単純二重ベクトル(英語版) v ∧ w の和)として定義することができる。その対応は、v* はベクトル v の双対ベクトルとして、写像 v ∧ w ↦ v* ⊗ w − w* ⊗ v により与えられ、直交座標系に関する場合これはちょうど上で述べた意味での通常の歪対称行列に一致する。この特徴付けはベクトル場の回転(これは自然な 2-ベクトル)を無限小回転と解釈することに利用できる(それゆえに「回転」と呼ばれる)。

n-次正方行列 A が歪対称化可能 (skew-symmetrizable) であるとは、正則な対角行列 Dおよび歪対称行列 S が存在して S = DA とできるときに言う。実行列に関して言う場合、D はさらに成分が正という条件も加える[6]。

^ a b c 本項において(何も言わなければ)、係数体の標数 は 2 でない (1 + 1 ≠ 0) と仮定する。標数が 2 のとき、任意のスカラーは自身を反数として持つので、任意の歪対称行列は対称行列の概念に一致する。歪対称行列に付随する双線型形式は歪対称形式であり、標数 2 のときは対称形式になる。一方、付随する双線型形式が交代形式であるような行列を「交代行列」と呼べば、標数 2 のとき「交代行列」は歪対称(=対称)行列と異なる。
^ 標数が 2 の体上では 1⁄2-倍写像が定義されないから、対称成分・歪対称成分ともこれでは定義できない。以下は標数が 2 でない任意の体上で成り立つ議論であることに注意せよ。

リー代数 (Lie algebra)、もしくはリー環[注 1]は、「リー括弧積」(リーブラケット、Lie bracket)と呼ばれる非結合的な乗法 [x, y] を備えたベクトル空間である。

ポアンカレ群(ポアンカレぐん、英語: Poincaré group)とは、ポアンカレ変換の為す変換群。10次元のノンコンパクトリー群である。

ポアンカレ変換とは、ミンコフスキー空間における等長変換である。 等長変換においては内積が保存される。

ポアンカレ変換は並進とローレンツ変換からなる。

ミンコフスキー空間の座標 x に対する並進とローレンツ変換は以下のようになる。

並進

ローレンツ変換

並進の生成子 P は運動量、ローレンツ変換の生成子 M は角運動量である。 ミンコフスキー空間上の関数(スカラー場)φ(x) を考えると



となる。

ポアンカレ代数とはポアンカレ群のリー代数で、次の交換関係をみたす。



ここで、a, Λ は変換のパラメータである。

 

複素数平面において中心 0、半径 1 の円周は複素数の積に関してリー群である。リー環は、もとのリー群の局所的な構造を完全に反映しており、リー群に付随するリー環と呼ばれる。

リー群(リーぐん、英語: Lie group)は群構造を持つ可微分多様体で、その群構造と可微分構造とが両立するもののことである。ソフス・リーの無限小変換と連続群の研究に端を発するためこの名がある。

G を台集合とする実リー群とは、G には実数体上有限次元で(多くの場合無限回微分可能という意味で)可微分な実多様体の構造が定められていて、G はまた群の構造を持ち、さらにその群の演算である乗法および逆元を取る操作が多様体としての G 上の写像として可微分であるもののことである(群演算が可微分写像となっていることを「群演算が可微分多様体の構造と両立する(可換である、あるいはうまくいっている)」といい表す)。このような構造が入っているという前提の下で、通常は「G はリー群である」というように台を表す記号を使ってリー群を表す。また、実数(実多様体)を複素数複素多様体)にとりかえて複素リー群の概念が定まる。

リー群の定義を圏論の言葉で述べれば、リー群とは可微分多様体の圏の群対象のことであるということができる。

複素数体 C 上の二次特殊線型群 SL(2, C) などは複素リー群の例である。また、直交群や斜交群は、成分の属する体の直積位相からの相対位相に関して多様体とみるとリー群である。このような行列からなるリー群は総じて(代数的)行列群あるいは線型代数群と呼ばれる一類(正確には、ある代数閉体上の一般線型群の部分群であって、成分の代数方程式によって与えられるもの)に属す。

一般化として、台となる多様体が無限次元であることを許すことにより無限次元リー群が同様の方法で定義される。また、類似物として係数の属する体を p-進数体にとりかえて p-進リー群が定義される。あるいは係数体を有限体に取り替えれば、リー群の有限な類似物としてリー型の群が豊富に得られるが、これらは有限単純群の多くの部分を占めるものである。また、可微分多様体を用いる代わりに解析多様体や位相多様体を台にすることもできるが、それによって新たなものが得られるというわけではない。事実、アンドリュー・グリーソン、ディーン・モントゴメリ、レオ・ジッピンらは1950年代に次のことを証明している。すなわち、G が位相多様体であって、連続な群演算をもつ群でもあるならば、G 上の解析的構造が唯一つ存在して、G をリー群にすることができる(ヒルベルトの第5問題あるいはヒルベルト-スミス予想)。

いくつかの例と、それらに関連する数学や物理学の分野について触れる。

ユークリッド空間 Rn は、ベクトルの加法を群演算と見て可換リー群である。
可逆な n 次正方行列全体 GLn(R) は行列の積によって群をなす(一般線型群と呼ばれる)が、これを n2 次元のユークリッド空間の部分多様体とみるとリー群である。この一般線型群は、行列式の値が 1 となる行列全体のなす群(特殊線型群と呼ばれる)を部分群として含むが、これもやはりリー群の例となる。
n 次元ベクトル空間における回転と鏡映が生成する変換群 On(R) は直交群と呼ばれるリー群である。(回転だけから生成される直交群の部分群SOn(R)は特殊直交群と呼ばれるリー群である。)
ピノル群は特殊直交群の二重被覆であり、場の量子論におけるフェルミ粒子の研究に用いられる。
斜交群 Sp2n(R) は、シンプレクティック形式を保つ行列全体のなすリー群である。
0 次元球面 S0, 1 次元球面 S1 および 3 次元球面 S3 は、これらをそれぞれ絶対値が 1 の実数全体、複素数全体、四元数全体と同一視することでリー群にすることができる。他の次元の球面ではこのようなことはできないし、リー群にはならない。リー群としての S1 はしばしば円周群と呼ばれる。いくつかの円周群同士の直積リー群はトーラス群と呼ばれる。
n 次の上三角行列の全体からなる群 B は n(n+ 1)/2 次元の可解リー群である。しばしば標準ボレル部分群と呼ばれる。
ローレンツ群およびポワンカレ群は特殊相対性理論において時空の等長性を記述するリー群で、それぞれ 6 および 10 次元である。
ハイゼンベルグ群は 3 次元リー群で量子力学に登場する。
n 次ユニタリ群 U(n) はユニタリ行列全体のなす n2 次元のコンパクトリー群である。行列式の値が 1 のユニタリ行列全体のなすリー群 SU(n) を部分群として含む。
直積リー群 U(1) × SU(2) × SU(3) は 1 + 3 + 8 = 12 次元のリー群である。これは標準模型のゲージ群で、それぞれの次元は 1 が光子、3 がベクトルボソン、8 がグルーオンに対応している。
メタプレクティック群 Mp は 3 次元のリー群である。SL2(R) の二重被覆群で、モジュラー形式の理論に用いられる。これを有限行列表現することはできない。
G2, F4, E6, E7, E8 型の例外型リー群はそれぞれ 14, 52, 78, 133, 248 次元である。 次元 190 のリー群 E7½ もある。
リー群から新たなリー群を作り出す標準的な方法がいくつか挙げられる。たとえば、

二つのリー群から直積群をつくると、これは直積位相に関してリー群になる(直積リー群)。
リー群の閉部分群をとると、これは相対位相でリー群をなす(リー部分群)。
リー群をその正規閉部分群で割った商はリー群である(商リー群)。
連結リー群の普遍被覆もまたリー群である(普遍被覆リー群)。例として、円周群 S1の普遍被覆は加法に関するリー群 R である。
リー群で無いものの例を挙げる:

無限次元実ベクトル空間を加法群と見たもののような無限次元群。これは有限次元の多様体ではないのでリー群ではない(無限次元リー群ではある)。
ある種の完全不連結群、たとえば体の無限次拡大のガロア群や、p-進数全体のなす加法群などがそうである。これらがリー群でないのは実多様体を台としないからである(後者は p-進リー群に属する)。
連結リー群のリー群準同型像は必ずしもリー群にはならない。典型的な例として、可換リー群 R を直積リー群 S1 × S1 へ、写像 x ↦ (x, √2 x) によって写すことを考える。この像は S1 × S1 の稠密な部分群で、したがってこれは多様体にならないし、特にリー群にはならない。これはまた、リー環の部分リー環がリー群の部分リー群に対応しないことの例ともなっている。
有理数体の加法群に実数体における位相の相対位相を入れたものも、多様体にならないのでやはりリー群ではない。

リー群の分類法の一つは、その代数的な性質によるものである。例えば、単純リー群、半単純リー群、可解リー群、冪零リー群、可換リー群は、その群としての単純性、半単純性、可解性、冪零性、可換性に従った分類である。また、リー群の多様体としての性質による分類もある。連結性やコンパクト性に着目して、連結リー群、単連結リー群、あるいはコンパクトリー群などを考えることができる。

リー群の単位元を含む連結成分(単位成分)は正規閉部分群で、それによる商は離散群である。
リー群の普遍被覆群は単連結リー群である。逆に、連結リー群はかならず、単連結リー群の(その中心に含まれる正規離散部分群による)商として得られる。
コンパクトリー群の分類は終わっており、それは単純コンパクトリー群とトーラス群の直積リー群の有限中心拡大であるか、さもなくば連結なディンキン図形に対応する単純コンパクトリー群であることが知られている。
単連結可解リー群は、ある階数の可逆上三角行列全体のなす群の閉部分群に同型であり、そのような群の有限次元既約表現は 1 次元表現(既約指標)である。可解リー群の分類は、ごくちいさい次元での場合を除けば、非常に厄介なものである。
単連結冪零リー群は、ある階数の対角成分がすべて 1 の可逆上三角行列のなす群の閉部分群に同型である。よってその有限次元既約表現は全て 1 次元である。冪零リー群の分類もやはりごく小さい次元での場合を除いて非常に困難である。
単純リー群という概念は、単に抽象群として単純であることを以ってその定義とする場合もあれば、単純リー環に対応する連結リー群として定義する場合もある。SL2(R) は第二の定義であれば単純であるが、第一の定義では単純でない。いずれの定義に従った場合も、その分類は全て知られている。
半単純リー群は、その付随するリー環が半単純(単純リー環の直積)となる連結群のことである。これは単純リー群の直積の中心拡大として得られる。
連結可換リー群はすべて、ユークリッド空間を加法に関する群と見たものとトーラス群との直積に同型である。

リー群は標準的に、離散リー群、単純リー群、可換リー群に以下のように分解される: ここでリー群 G に対して

 


とすると、次の正規列がえられる:


そしてこのとき、

 

 

これにより、リー群に対する問題の一部(たとえばリー群のユニタリ表現を求める問題など)は連結単純リー群の同種の問題に帰着して考えることができる。

リー群に対して、その単位元における接空間(を台となるベクトル空間としてそれに積を定義したもの)としてリー環を対応付けることができる。このリー環は、もとのリー群の局所的な構造を完全に反映しており、リー群に付随するリー環と呼ばれる。このリー環の元は、略式的には(ユークリッド空間内にある曲面の古典的な接平面に対するイメージをそのまま反映して)リー群の単位元に無限に近いところにある元であると見ることができるし、リー環の括弧積はそのような無限小の交換子が定めるものと考えることができる。厳密な定義に先立って例を挙げる:

可換リー群 Rn のリー環はちょうど Rn に括弧積を、任意の A, B に対して


とおくことによって与えたものである。一般に、付随するリー環の括弧積が恒等的に 0 となることは対応するリー群が可換群であることに同値である。

一般線型群 GLn(R) のリー環は全行列環 Mn(R) に


なる括弧積を入れたものである。

G が GLn(R) の閉部分群なら、G のリー環は略式的に Mn(R) に属する行列 mであって 1 + εmが G に属すようなもの全体からなるものと見ることができる。ここで ε は正の無限小で、ε2 = 0 となるもの(もちろん実数ではない)である。例えば直交群 On(R) (AAT = 1 となる行列 A の全体)に付随するリー環


あるいは ε2 = 0 と考えると同じことだが


となる行列 m の全体からなる。

上で与えた即物的な定義は安直で使い易いものであるが、いくつか問題がある。たとえば、この定義を考える前にリー群を行列群として表現できている必要があるが、任意のリー群を考えるときにはそんなことはできないし、また表現の仕方によらず対応するリー環が定まるかどうかということはまったく明らかなことではない。これらの問題はリー群に付随するリー環の一般的な定義を与えることで回避される。定義以下のような考察に従って与えられる:

微分多様体 M 上のベクトル場は、M 上の滑らかな関数のなす環の微分 X と考えることができる。 また、二つの微分 X, Y に対して、そのリー括弧積 [X, Y] = XY − YX は再び微分となるので、この括弧積のもとでベクトル場の全体をリー環にすることができる。
G が可微分多様体 M に滑らかに作用するリー群とすると、G の作用を関数環へ移行し、さらに微分に移行することで G はベクトル場に対して作用させることができる。この G の作用によって不変なベクトル場全体のなすベクトル空間は、リー括弧積に関して閉じているのでリー環となる。
この構成法をリー群 G に、その台の多様体構造に着目して適用する。つまり、G は G = M に左からの積で作用していると見なすと、G 上の左不変ベクトル場の全体はベクトル場のリー括弧積のもとでリー環となる。
リー群の単位元における接ベクトルはどれも(それを群の左移動作用で各点に移し変えることにより)左不変ベクトル場に拡張することができる。これにより、単位元 e における接空間 Te と左不変ベクトル場全体の作るベクトル空間とを同一視して、接空間をリー環にすることができる。これをリー群 G のリー環(G に付随するリー環、G に対応するリー環)と呼んで、リー群を表すのに使っている文字の対応する小文字(慣習的にドイツ文字を用いることが多い)を充てて表す。例えばリー群を G で表しているのなら、そのリー環は g や で表す。 また Lie(G) などとして付随するリー環を表すこともある。
リー群に付随するリー環は有限次元で、とくに元のリー群と同じ次元を持つ。リー群 G に付随するリー環 g は局所同型の違いを除いて一意に定まる。ここで、二つのリー群が「局所同型」であるとは、単位元の適当な近傍を選ぶと、その上で同型対応がとれることをいう。リー群に対する問題は、対応するリー環に対する問題を先に解決し、その結果を用いることによって(通常は簡単に)解決されるということがよくある。例えば、単純リー群の分類問題は対応するリー環の分類をまず済ませることによって解決される。

左不変ベクトル場を用いる代わりに右不変ベクトル場を用いても、単位元における接空間 Teにリー環の構造を入れることができるが、この場合も左不変ベクトル場を用いたと同じリー環が定まる。これは、リー群 G 上で逆元をとる写像を考えると、それを移行して右不変ベクトル場と左不変ベクトル場が対応付けられ、特に接空間 Te 上では −1 を乗じる操作として作用することから従う。

接空間 Te 上のリー環構造は次のように記述することもできる: 直積リー群 G × G 上の交換子作用素


は (e, e) を e に写すので、その微分は Te 上の双線型作用素を引き起こす。この双線型作用素は実際には零写像なのだが、接空間との厳密な同一視の元で、二階微分はリー括弧積の公理を満たす作用素を引き起こし、それは左不変ベクトル場を用いて定義される場合のちょうど二倍に等しい。

G, H をリー群(実なら双方とも実、複素なら双方とも複素)とする。写像 f: G → H がリー群の準同型であるとは、f は抽象群としての群準同型であって、かつ f が解析的であるときにいう。ただし、f が「解析的」であるという条件を「連続」であるという条件に弱めても定義としては同値になることが示せる。文脈上リー群の準同型であると明らかなときは単に準同型とよぶ。リー群準同型の合成はまたリー群準同型である。全ての実リー群のなす類、あるいは全ての複素リー群のなす類に、それぞれの意味でのリー群準同型を射と見なしてリー群の圏ができる。二つのリー群が同型であるとは、その間に全単射なリー群準同型で、その逆写像もまたリー群準同型になるようなものが存在することをいう。同型なリー群同士を区別する必要は実用上はなく、それらは単に元の表し方が異なるだけだと考えられる。

リー群の準同型 f: G → H は付随するリー環たちの間の準同型


を引き起こす。したがって、リー群をそれに付随するリー環へ移す対応 "Lie" は関手である。

アドの定理の一つの形は、有限次元リー環は行列リー環に同型であると述べられる。有限次元の行列リー環に対しては、それを付随するリー環にもつような線型代数群(行列リー群)が存在するので、したがってどんな抽象リー環もある行列のリー群のリー環として記述することができる。

リー群の大域的構造をそのリー環によって完全に記述することは一般にはできない。たとえば Z を G の中心に属する任意の離散群としてやると、 G と G/Z は同じリー環をもつ。しかしながら連結リー群に関しては、それが単純、半単純、可解、冪零あるいは可換となることが、付随するリー環の対応する性質が成り立つことに同値であるということができる。

リー群が単連結であることを仮定すると、その大域的構造はそのリー環によって完全に決定される。任意の有限次元リー環 g に対して、単連結リー群 G でそのリー環が g であるものが同型を除いて唯一つ定まる。さらに、リー環の準同型は対応する単連結リー群の間の準同型へ一意的に持ち上げられる。

リー環 Mn(R) からリー群 GLn(R) への指数写像は通常の冪級数として、行列 A に対して


によって定められる。G が GLn(R) の部分群ならば、この指数写像は G のリー環を G のなかへ写す。したがって、任意の行列のリー群に対して指数写像を考えることができる。

この指数写像の定義は扱いやすいが、行列群ではないリー群に対しては定義されていないし、指数写像が行列群としての表し方に依らないかどうかについては自明なことではない。これは以下のように抽象的な指数写像の定義を与えることで解決することができる。

リー環 g の任意のベクトル v は、1 を v へと写す R から g への線型写像(これをリー環準同型と考えることができる)を定める。R は単連結リー群 R のリー環になっているので、これは対応するリー群の間の準同型 c: R → G を引き起こす。これは s, t ∈ R に対して


を満たす(右辺は G における乗法である)。この式と指数関数が満たす公式との類似性から、


とおくと、行列群に対しては今の定義は先の定義と同じものを定めることが確かめられる。これを指数写像と呼ぶ。作り方からこれはリー環 g を対応するリー群 G のなかへ写すことが判る。指数写像は、リー環 g の零元 0 の近傍からリー群 G の単位元 e の近傍への可微分同相写像である。実数全体が成す可換リー環 R は正の実数全体が乗法に関して成すリー群 R+× に付随するリー環になっているので、指数写像は実数に対する指数関数の一般化になっていることがわかる。同様に複素数全体が成す可換リー環 C が非零な複素数全体が乗法に関して成すリー群 C× のリー環であることから、指数写像複素数に対する指数関数の一般化にもなっている。もちろん、正方行列全体 Mn(R) が通常の交換子をリー括弧積として成すリー環が、リー群 GLn(R) のリー環であることから指数写像は行列の指数関数の一般化でもある。

指数写像がリー群 G の単位元 e の適当な近傍 Nの上への写像であるので、付随するリー環の元は G 上の無限小生成作用素 (infinitesimal generator) と呼ばれる。N の生成する G の部分群は G の単位成分である。

指数写像リー環は連結リー群の局所群構造を決定する。実際、リー環 g の零元の適当な近傍 U で、u, v が U の元ならば


が成り立つ(ベイカー・キャンベル・ハウスドルフの公式(英語版))。ここで、省略した項は判っていて、4 つ以上の元のリー括弧積が関係するものである。u と v が可換なときはこれは簡約されて、見慣れた指数法則の式 exp(u) exp(v) = exp(u + v) となる。

リー環からリー群への指数写像は必ずしも全射とはならない。群が連結であってもそれは同じである(連結群がさらにコンパクトか可解であるならば全射になる)。 例えば、SL2(R) の指数写像全射にはならない。

リー群は定義から有限次元である。しかし、有限次元性を除けばリー群に酷似した群というものがたくさん存在する。これらの群に対する一般論は少ないが、いくつかの例では研究がなされ結果が得られている。

多様体上の可微分同相写像全体の成す群。円周上定義される可微分同相写像全体の成す群はきわめてよく知られている例である。そのリー環というのは実質的にヴィット環 (Witt algebra) で、その中心拡大はヴィラソロ代数と呼ばれ、弦理論や共形場理論などで用いられている。より大きな次元の多様体上の可微分同相写像群についてはあまり知られていない。時空の可微分同相写像群は、重力の量子化に際してしばしば現れる。
多様体から有限次元群への滑らかな写像全体の成す群はゲージ群と呼ばれ、場の量子論やドナルドソン理論で用いられている。多様体として円周をとるときは、ループ群と呼ばれ、付随するリー環が実質的にカッツ・ムーディ代数であるような中心拡大を持つ。
一般線型群や直交群などに対する無限次元の類似物。重要な側面のひとつは、これらが「簡素な」位相的性質を持っているだろうということ

小林俊行、大島利雄 『リー群と表現論』 岩波書店、2005年4月6日。ISBN 4-00-006142-9。
Adams, J. Frank (December 1, 1996). Lectures on Exceptional Lie Groups. Chicago Lectures in Mathematics. University Of Chicago Press. ISBN 0-226-00527-5.
Fulton, William; Harris, Joe (July 30, 1999). Representation Theory : A First Course. Graduate Texts in Mathematics / Readings in Mathematics (1st ed.). Springer Verlag. ISBN 0-387-97495-4.
Knapp, Anthony W. (2002). Lie Groups Beyond an Introduction. Birkhäuser. ISBN 0-8176-4259-5.
Rossmann, Wulf (August 24, 2006). Lie Groups: An Introduction Through Linear Groups. Oxford Graduate Texts in Mathematics. Oxford University Press. ISBN 0-19-920251-6. - 注意:2003年刊の再版で初版の誤植が訂正されている。線型群(すなわち有限次元の行列で定義される連続群)のトリビアルでない実例を通じたリー群とリー代数の入門書。
Serre, Jean-Pierre (1992). Lie Algebras and Lie Groups: 1964 Lectures given at Harvard University. Lecture Notes in Mathematics (2nd sub ed.). Springer. ISBN 3-540-55008-9.
 

である。たとえば、クーパーの定理(英語版)を参照。

 

 

共形場理論(きょうけいばりろん、Conformal Field Theory, CFT)

共形場理論(きょうけいばりろん、Conformal Field Theory, CFT)とは、共形変換に対して作用が不変な場の理論である。特に、1+1次元系では複素平面をはじめとするリーマン面上での理論として記述される。

共形変換に対する不変性はWard-Takahashi恒等式を要請し、これをもとにエネルギー-運動量テンソル(あるいはストレステンソル)に関する保存量が導出される。また1+1次元系においては、エネルギー-運動量テンソルを展開したものは、Virasoro代数と呼ばれる無限次元リー代数をなし、理論の中心的役割を果たす。

共形変換群は、時空間の対称性であるポアンカレ群の自然な拡張になっており、空間d-1次元+時間1次元のd次元時空間ではリー群SO(d,2)で記述される。この変換群の生成子は(d+2)(d+1)/2個あり、その内訳は以下のとおり。

d(d-1)/2: 空間 d-1 + 時間 1次元空間のローレンツ変換
d: d次元空間の並進+時間推進
※以上が、部分群としてのポアンカレ群の生成子をなす。 スケール普遍性は定義より以下の変換(ディラテーション)を示唆する。

1: スケール変換(計量の目盛りの変更)
さらに強く、共形不変性を要求すると

d: d次元時空の特殊共形変換(反転×平行移動×反転)
が加わる。この代数SO(d,2)を共形代数(conformal algebra)と呼ぶ。

場の理論の基本的な可観測量である相関関数(場の演算子の積の真空期待値)は共形代数によって強い制限を受ける。特にユニタリな共形場の理論においては、例えばスカラー演算子の二点関数は と定まってしまう。ここで、 は演算子 のスケーリング次元と呼ばれる(理論依存の)パラメータである。

2次元共形場理論は歴史的には1984年にBelavin、ポリャコフ、Zamolodchikov(BPZ)によって初めて定式化された[1]。2次元共形場理論で言及するのは次のような場合である。

一般に(2+1次元以上の時空では)共形変換群は有限個の生成子からなる有限次元リー群である。しかし、空間1次元+時間1次元(d=2)の2次元共形場理論場合に限り、共形変換群SO(2,2)は正則関数の等角写像の変換群(無限次元リー群)に拡張される。この場合共形変換群SO(2,2)は無限個の生成子からなる代数(Virasoro 代数)の部分代数となる。Virasoro代数から得られるヒルベルト空間に対する制限は強力であり、ミニマル模型と呼ばれる模型群に対しては、(これには臨界点上の2次元イジング模型も含まれる)全ての相関関数の振る舞いをVirasoro代数とWard-Takahasi恒等式から厳密に求めることができる(可解である)。可解である2次元共形場理論は、2次元統計系あるいは1+1次元量子系を理解する上で強力な武器となっている。

数学・物理学においてヴィラソロ代数(ヴィラソロだいすう、英語: Virasoro algebra)は円周上定義される複素多項式ベクトル場の中心拡大として与えられる無限次元複素リー環で、共形場理論や弦理論において広く用いられる。名称は物理学者のミゲル・ヴィラソロ(英語版)に由来する。

ヴィラソロ代数とは交換関係


を満たす可算無限個の元 によって生成されるリー代数である(1/12 という因子は単に慣習的なものである)。ここでの中心元 C はセントラルチャージと呼ばれる。

ヴィラソロ代数は、円周上の多項式ベクトル場全体の成す複素ヴィット環の中心拡大である。円周上の実多項式場全体の成す実リー環は円周上の微分同相全体の成すリー環の稠密な部分リー環である。

弦理論におけるエネルギー・運動量テンソルは世界面(英語版)の共形群の生成元すべてを含むので、2つのヴィラソロ代数の直積の交換関係に従う。これは、共形群が前方および後方光円錐の分離微分同相に分解されるからである。世界面の微分同相不変性はエネルギー・運動量テンソルが消えることをも意味している。このことはヴィラソロ制限(英語版)として知られ、量子化された理論では、すべての状態について成り立つのではなく、物理的な状態(ノルムが正の状態)にだけ成り立つ(グプタ・ブロイラー量子化(英語版)参照)。

ヴィラソロ代数の最高ウェイト表現とは、


を満たし、 ( ) となるようなベクトル によって生成されるベクトル空間である。このとき の固有値である複素数 を最高ウェイトと呼び、ベクトル を最高ウェイト の最高ウェイトベクトルと呼ぶ。(注意:通常、表現と言った場合にはリー代数から への準同型写像 のことであるが、ヴィラソロ代数の表現論においては上記の によって生成される表現空間 そのものを最高ウェイト表現と呼ぶことが多い。また表現の記号 は省略して、よく を と表記する。またヴィラソロ代数の元としての とその固有値 とに同じ文字 が使われることもある。)

ヴィラソロ代数の最高ウェイト表現は以下の形のベクトル


の線形結合によって張ることができる。またこの形のベクトルがすべて線形独立であるとき、その最高ウェイト表現をヴァーマ加群(英語版)と呼ぶ。これらのベクトルはすべて の固有ベクトルであり、その固有値は である。従って最高ウェイト のヴァーマ加群は の固有空間によって分解され、固有値 ( ) の固有空間の次元は の分割数 となる。 またこのときの をその固有空間のレベルと呼ぶ。

最高ウエイトベクトル によって生成される最高ウエイト表現 には 以下の条件によって定まる不偏内積 が定義される:


最高ウエイト表現の2つのベクトルはレベルが異なるとき不変内積について直交する。 どの複素数の組 ( , ) についても、既約最高ウェイト表現が一意的に存在する。

既約でない最高ウェイト表現はカッツ行列式から求められる。 レベルNのカッツ行列とは、整数 N の分割 と (つまり となる正整数の有限列)に対して、内積


を成分にもつ 行列のことで、 その行列式をカッツ行列式という。 ヴィラソロ代数の中心 c を


とパラメトライズし、整数r, sに対して


と置くと、 カッツ行列式 には以下の公式が知られている。


(関数 p(N) は分割数であり、AN は定数である) この公式は Kac (1978) によって主張され(Kac & Raina (1987) も参照)、Feigin & Fuks (1984)において初めて証明された。 に対応するヴァーマ加群では、以下に説明する特異ベクトルが存在するため、可約となる。 特に、q/pが正の有理数の場合、無限個の特異ベクトルが存在しそれらの生成する極大部分加群による商をミニマル表現という。 この表現はBelavin (1984) らが研究を始めたミニマル模型(英語版)に対応する。 この結果は Feigin & Fuks (1984) によってすべての既約最高ウェイト表現の指標を求めるために使われた。

ヴィラソロ代数の最高ウエイト表現上のベクトル が特異ベクトルであるとは


となることである。最高ウエイトが のとき、ヴァーマ加群はレベル rs に特異ベクトルを持つ。 特異ベクトルが存在するとそれを最高ウエイトベクトルとする部分加群が存在するので、 元の表現の既約性を判定することができる。 また特異ベクトルはヴィラソロ代数を自由場表示することによって、 長方形ヤング図形に対応したジャック多項式(英語版)に一致することが知られている。

最高ウェイト表現がユニタリであるとは、内積 が正定値となるということである。 実数の固有値 , を持つ既約最高ウェイト表現がユニタリであるのは、 かつ である場合、若しくは 上の条件 にさらに制限を加え が


(m = 2, 3, 4, ...) のいずれかの値をとり、かつ hが


(r = 1, 2, 3, ..., m−1; s= 1, 2, 3, ..., r) のいずれかの値をとる場合であり、かつそのときに限る。 このときq=m, p=m+1に対応している。 これらの条件の必要性は Friedan, Qiu & Shenker (1984) によって示され、Goddard, Kent & Olive (1986) がコセット構成(英語版)あるいはGKO構成(英語版)(ヴィラソロ代数のユニタリ表現をアフィンカッツ・ムーディリー環のユニタリ表現のテンソル積と同一視する)を用いて十分性を示した。c < 1 を持つユニタリ既約最高ウェイト表現は、ヴィラソロ代数の離散系列表現と総称される。

離散系列表現の最初のほうは以下のように与えられる。

m = 2: c = 0, h = 0. (自明表現)
m = 3: c = 1/2, h = 0, 1/16, 1/2. (イジング模型に関連する 3 種類の表現)
m = 4: c = 7/10. h = 0, 3/80, 1/10, 7/16, 3/5, 3/2. (三重臨界イジング模型に関連する 6 種類の表現)
m = 5: c = 4/5. (3-状態ポッツ模型に関連する 10 種類の表現)
m = 6: c = 6/7. (三重臨界 3-状態ポッツ模型に関連する 15 種類の表現)

を交換関係


を満たすハイゼンベルグ代数の生成元とする。 このときヴィラソロ代数の生成元は


と表示することができる。ただし は正規順序化の記号であり、 ヴィラソロ代数の中心を とパラメトライズした。

ヴィラソロ代数の超対称的拡大にヌヴ・シュワルツ代数(英語版)、ラモン代数(英語版)と呼ばれる2つがある。これらの代数の理論はヴィラソロ代数のそれとよく似ている。

ヴィラソロ代数は、種数 0 のリーマン面上で固定された2点を除いて正則であるような有理型ベクトル場全体の成すリー環の中心拡大である。Krichever & Novikov (1987) はより高い種数のコンパクトリーマン面上で固定された2点の例外を除いて正則であるような有理型ベクトル場全体の成すリー環の中心拡大を発見、また Schlichenmaier (1993) はこれを例外が2点より多い場合に拡張した。

ヴィット環(ヴィラソロ代数から中心拡大を除いたもの)は Cartan (1909) によって発見された。その有限体上の類似物が1930年代にエルンスト・ヴィットによって研究される。ヴィラソロ代数を与えるヴィット環の中心拡大が(正標数の場合に)初めて Block (1966, p. 381) によって発見され、それと独立に Gel'fand & Fuks (1968) によって(標数0の場合が)再発見された。ヴィラソロは1970年、双対共鳴モデルの研究の中でヴィラソロ代数を生成する演算子のいくつかを書き下ろしているが、中心拡大の発見には到っていない。Brower & Thorn (1971, p. 167) によれば、中心拡大がヴィラソロ代数を与えることの物理学における再発見は程なく J. H. Weis によって成されている。

負の定スカラー曲率を持つローレンツ多様体

ド・ジッター宇宙(ド・ジッターうちゅう、De Sitter universe)とは、ウィレム・ド・ジッターが解いたアルベルト・アインシュタイン一般相対性理論重力場方程式の三つの解のうちの一つの解であり、密度と圧力がともにゼロで、宇宙項が正の値をとる宇宙である。この解はド・ジッターの名をとってド・ジッター宇宙と呼ばれるようになった。

この模型では、宇宙は空間的に平坦であり、普通の物質を無視し、そして宇宙の力学は宇宙定数により支配されている。この宇宙定数はダークエネルギーに相当すると考えられている。

ド・ジッター宇宙は、普通の物質は含まないが、膨張率Hを決める正の宇宙定数をもつ。宇宙定数が大きいほど、膨張率も大きくなる。

,
比例定数は、慣例に従う。宇宙定数は であり はプランク質量である。

一般に、この解のパッチは、フリードマンルメートル・ロバートソン・ウォーカー計量(FLRW) の膨張する宇宙として示される。スケール因子 は、以下で与えられる。

,
定数Hはハッブル定数でありtは時刻 (time) である。FLRWの空間ではスケール因子 は、空間の測定膨張 (en:Metric expansion of space) を示す。

スケール因子の指数関数的膨張は、二つの加速していない観測者は、最終的には、光速より速く離れることを示している。二つの観測者が光速より速く離れる時点になると、観測者はもはや接触することができない。そのため、ド・ジッター宇宙での観測者は、事象の地平面を見ることになる。観測者は、事象の地平面の先は、何も見ることができず、またいかなる情報も取得することはない。もし私たちの宇宙がド・ジッター宇宙に近づいているのなら、私たちはいつか、天の川や重力に束縛されている局部銀河群以外の銀河を観測することができなくなる。[1]

ド・ジッター宇宙は、最初期宇宙における宇宙のインフレーションに応用される。宇宙のインフレーション模型の多くは、ド・ジッター宇宙に近似しており、時間に依存するハッブル定数を与えている。膨張している現実の宇宙ではなくド・ジッター宇宙を使うと、最初期宇宙のインフレーションは、より単純に計算される。ド・ジッター宇宙を利用することにより、膨張は指数関数的となるが、多くの単純化が可能となる。

数学や物理学において、ド・ジッター空間 (de Sitter space) は、通常のユークリッド空間の球面の、ミンコフスキー空間あるいは時空における類似物である。n 次元ド・ジッター空間は dSn と書き、(標準のリーマン計量を持つ)n次元球面のローレンツ多様体での類似である。この空間は、最大の対称性を持ち、正の定曲率を持ち、3 以上の n に対し、単連結である。ド・ジッター空間は反ド・ジッター空間と同様に、ライデン大学天文学の教授で、ライデン天文台天文台長であったウィレム・ド・ジッター (Willem de Sitter) (1872–1934) の名前に因んでいる。ウィレム・ド・ジッターとアルベルト・アインシュタイン (Albert Einstein) は、1920年代にライデンで、宇宙の時空の構造について研究を共にした。

一般相対論のことばでは、ド・ジッター空間は最大対称性を持ち、(正の真空エネルギー密度と負の圧力に対応する)正(反発力)の宇宙定数 を持つアインシュタイン場の方程式の真空解(英語版)(vacuum solution)である。n = 4( 3つの空間次元と 1つの時間次元)では、ド・ジッター空間は物理的な宇宙の天文学的なモデルである。ド・ジッター宇宙(de Sitter universe)を参照。

ド・ジッター空間はウィレム・ド・ジッターにより、また同時に、独立してトゥーリオ・レヴィ=チヴィタ (Tullio Levi-Civita) により発見された。

さらに最近は、ド・ジッター空間がミンコフスキー空間を使うというよりも、特殊相対論の設定として考えられるようになった。その理由は、群縮約(英語版)(group contraction)は、ド・ジッター空間の等長変換群をポアンカレ群へと還元し、凖単純群(英語版)(semi-simple group)というよりも単純群の中へ、時空変換部分群やポアンカレ群のローレンツ変換部分群を統一することを可能とする。この特殊相対論の定式化をド・ジッター相対性(英語版)(de Sitter relativity)と呼ぶ。

ド・ジッター空間は 1以上の次元のミンコフスキー空間の部分多様体として定義することができる。標準的な計量


を持つミンコフスキー空間 R1,n をとると、ド・ジッター空間は一枚のシート


の双曲面により記述される部分多様体である。ここに はある長さの次元を持つ正の定数である。ド・ジッター空間上の計量は、周囲の空間の計量から導かれる。導かれた計量はローレンツ符号を持ち非退化である。(上の定義に加えて、 を と置き換えると、2枚のシートの双曲面を得る。この場合の導かれた計量は正定値であり、それぞれのシートは n-次元双曲空間のコピーである。

ド・ジッター空間は、2つの不定値直交群(英語版)(indefinite orthogonal group)の商空間O(1,n)/O(1,n−1) としても定義される。このことは、この空間が非リーマン的な対称空間(英語版)(symmetric space)であることを示している。

トポロジーとして、ド・ジッター空間は R × Sn−1 である(従って、n ≥ 3 であれば、ド・ジッター空間は単連結である。

ド・ジッター空間の等長変換群(英語版)(isometry group)は、ローレンツ群 O(1,n) である。従って、計量は n(n+1)/2 個の独立なキリングベクトルを持ち、最大対称である。すべての最大対称空間は定曲率を持つ。ド・ジッター空間のリーマン曲率テンソルは、


により与えられる。

リッチテンソルは計量に比例する


ので、ド・ジッター空間はアインシュタイン多様体である。このことは、ド・ジッター空間は、


により与えられる宇宙定数を持つアインシュタイン方程式の真空解であることを意味する。ド・ジッター空間のスカラー曲率は、


により与えられる。n = 4 の場合、Λ = 3/α2 であり、R = 4Λ = 12/α2 である。

ド・ジッター空間へは、静的座標(英語版)(static coordinates) を次のようにして導入することができる。




ここに、 は (n−2)-球面の Rn−1 の中への標準的な埋め込みを与える。 これらの座標では、ド・ジッター計量は、


となる。 には天文学的地平線(英語版)(cosmological horizon)が存在することに注意する。

として、




とすると、 座標では、計量は、

標準計量 を持つ を形成する を考え、




とすると、ド・ジッター空間の計量は、


である。ここに


ユークリッド的な双曲空間の計量である。

で を表すして、



とすると、計量は、


である。

により時間変数を共形時間へ変えると、アインシュタインの静的宇宙に共形同値な計量


を得る。これはド・ジッター空間のペンローズダイアクラムを求めることができる。[要説明]

で を表し、





とすると、計量は、


である。ここに


は開いたスライシングでの曲率 の半径を持つ 次元ド・ジッター空間の計量である。双曲計量は、


により与えられる。

これは、 の下での開いたスライシングの解析接続であり、時間ライクと空間ライクな性質を交換するので、 と を交換する。

 


である。ここに は の上の平坦な計量である。