冷却原子

冷却原子気体とは、レーザー冷却等の技術を用いて絶対零度の付近まで冷却された原子、あるいは原子気体のことである。典型的には、数十マイクロケルビン以下を記録する。このような極低温では、原子気体の量子力学的な性質が重要になる。実験的には、いくつかの技術を組み合わせてこの温度を実現する。通常、実験の初期段階では、原子を磁気光学トラップ中に捕捉し、レーザー冷却により冷却する。さらに限界まで冷却するためには、レーザー冷却された原子を磁気トラップや光学トラップに移し、蒸発冷却等の手法を用いる[1]。

十分に冷却されると、原子気体は量子力学に支配された新たな物質状態を形成する。例えば、ボース原子の場合はボース=アインシュタイン凝縮(BEC)が、フェルミ原子の場合は縮退フェルミ気体[2]が実現する。

冷却原子を用いて、量子相転移BEC、ボソンの超流動、量子磁性、多体スピン・ダイナミクス、エフィモフ効果、BCS超流動、BCS−BECクロスオーバー等の量子現象が研究されている[3]。

ゆらぎの定理

ゆらぎの定理(ゆらぎのていり、英: Fluctuation Theorem, FT)とは、ある過程の実現確率と、その逆過程の実現確率との間に、対称性が存在することを示した定理である。

ゆらぎの定理は、平衡近傍に適応すると相反定理、揺動散逸定理、線形応答理論を、等温系で適応するとJarzynski等式を導くことが出来る。ゆらぎの定理は、線形応答の関係を、非線形な領域にまで拡張したものとも見ることができる。それまで有意味な関係式があると思われてこなかったような領域において発見された関係式であり、そのため発見された90年代以降、ゆらぎの定理に関係した研究は活発に行われている。

ある操作(例えばピストンを引いて始状態から終状態に変化させる)におけるエントロピー生成率を
σ
(
t
)
{\displaystyle \sigma (t)}、その逆操作(終状態からピストンを押して始状態にする)におけるエントロピー生成率を
σ

(
t
)
{\displaystyle \sigma ^{\dagger }(t)}とする。また、エントロピー生成の時間平均を
σ
¯
(
t
)

(
1
/
t
)

0
t
σ
(
s
)
d
s
{\displaystyle {\bar {\sigma }}(t)\equiv (1/t)\int _{0}^{t}\sigma (s)ds}と書くことにする。
σ
(
t
)
{\displaystyle \sigma (t)}を
(
A
,
A
+
d
A
)
{\displaystyle (A,A+dA)}の範囲に見出す確率を
P
(
σ
¯
(
t
)
=
A
)
{\displaystyle P({\bar {\sigma }}(t)=A)}とし、
σ

(
t
)
{\displaystyle \sigma ^{\dagger }(t)}を
(

A
,

A

d
A
)
{\displaystyle (-A,-A-dA)}の範囲に見出す確率を
P
(
σ
¯

(
t
)
=

A
)
{\displaystyle P({\bar {\sigma }}^{\dagger }(t)=-A)}とする。

このとき、ゆらぎの定理は以下で表される。

P
(
σ
¯
(
t
)
=
A
)
P
(
σ
¯

(
t
)
=

A
)
=
e
A
t
{\displaystyle {\frac {P({\bar {\sigma }}(t)=A)}{P({\bar {\sigma }}^{\dagger }(t)=-A)}}=e^{At}}
ゆらぎの定理は、1993年にエヴァンス、コーエン、モリスによって、Nose-Hoover熱浴のシミュレーションにおいて発見された[1]。当時はNose-Hoover熱浴特有の性質と思われていたが、1998年にKurchanによってランジュバン方程式に従う系に[2]、2000年にJarzynskiによって一般のハミルトン系に[3]対して証明がなされ、極めて一般的に成り立つ定理であることが分かった。

ゆらぎの定理は、状態変化の速さ(例えば、ピストンを動かす速さ)に対していかなる制限もなされていない。これは、操作が準静的のみ、あるいは線形応答領域のみのように制限されていたこれまでの定理と一線を画する部分である。また、この定理はエントロピーが増えるような「極めて典型的な状態変化」の発生確率と、エントロピーが減るような「極めてまれな状態変化」の発生確率との間に、上記のような極めてシンプルな関係が存在していることを主張している。ゆらぎの定理以前には、そのような「極めてまれな状態変化」の発生確率について有意義な関係式など存在しないだろうと思われていたので、この定理はそうした常識的な見方を覆したという意義も持っている。

多くの場合、ゆらぎの定理は上記のような「ある遷移過程における順過程と逆過程のエントロピー生成率の関係」を指すが、定常状態におけるエントロピー生成率の大偏差性質についての定理も「ゆらぎの定理」と呼ばれることがある。これらを区別するため、前者を「遷移過程のゆらぎの定理」、後者を「定常過程のゆらぎの定理」と呼ぶこともある。

定常過程のゆらぎの定理は以下で表される。

lim
t


1
t
ln

P
(
σ
¯
(
t
)
=
A
)
P
(
σ
¯
(
t
)
=

A
)
=
A
{\displaystyle \lim _{t\to \infty }{\frac {1}{t}}\ln {\frac {P({\bar {\sigma }}(t)=A)}{P({\bar {\sigma }}(t)=-A)}}=A}

中性子を含むすべての量子的粒子は波の性質を示す。

中性子回折法(ちゅうせいしかいせつほう, Neutron diffraction; ND)とは、結晶による中性子線の回折現象を利用して、物質の結晶構造や磁気構造の解析を行う手法である。

中性子は、ほぼすべての原子の原子核に含まれる粒子であるが、それらは原子核中で束縛されている。中性子回折法に必要な自由中性子は、寿命が短いため通常は自然界に存在せず、核分裂反応からのみ得ることができる。中性子を含むすべての量子的粒子は波の性質を示し(物質波)、その現象のひとつとして回折が知られている。そこで、核分裂によって得られた中性子線のエネルギーを適切に選別し、その波長を結晶の原子核間距離と同程度とすることで、原子核が回折の障害物としてはたらき、結晶構造解析に用いることができる。

物質に入射した中性子線は、X線と同様にブラッグの回折条件

2・d・sin(θ)=n・λ
(d:格子定数、θ:中性子線入射角、n:整数、λ:中性子波長)
を満たして回折する。低エネルギーのX線の有効侵入深さが数μm程度から1mm未満であるのに対して、試料にも依存するが中性子回折に用いられる熱中性子の有効侵入深さは、一般に数mmから数十mmと大きくなる場合が多く、物質内部の結晶配列や磁気構造の情報を取得可能である。特にX線回折は電子が少ない分子では有効でないが中性子回折は低分子量の分子でも解析が可能である。主に電子雲と相互作用するX線の回折においては、原子番号が大きくなるほど回折強度への寄与も大きくなるが、中性子原子核と相互作用するため、回折強度は同位体間でも異なる。このことから、中性子回折法では例えばH(水素)とD(重水素)を区別することもできる。またバナジウムのような元素はX線を強く散乱する物質であるが、核はほとんど中性子を散乱しない。それゆえ、よく容器物質として使われる。

X線との最も大きな違いは、小さな原子核によって散乱が起こるということである。つまり、電子雲の形を表す散乱因子が必要なく、X線のように散乱角の増加に伴って散乱強度が減少しないということである。それゆえ、高角の測定や低温実験でも強い回折パターンを得ることができる。このことから、多くの中性子回折装置には4 K程度までの低温で実験が行える液体ヘリウムやGM冷凍機などの冷却装置が備わっている。このような特徴から、X線では決定が困難であるような結晶中においても原子の位置を正確に決定できるメリットがある。

中性子回折法では、中性子源(原子炉による定常中性子源や核破砕パルス中性子源)、回折計(場合によっては分光器)と試料および検出器が必要である。X線回折に比べて大きな試料が用いられ、主に粉末回折として行なわれる。研究用原子炉から中性子を得る場合は、放出される中性子のうち、実験に必要な波長を持つもののみを取り出すために、モノクロメータ結晶やフィルターによる単色化が必要である。核破砕中性子源の場合は、パルス状の中性子が得られるため、飛行時間法(TOF法)によって入射中性子線のエネルギーを選別できる。このとき、必要な波長以外の中性子を遮断するのに、パルス発生に同期させたチョッパー等が必要である。

中性子回折の実験を初めて行ったのは,1945年アーネスト・ウォラン(英語版)である(この実験はオークリッジ国立研究所にある黒鉛炉が用いられた)。さらにその後1946年6月,ウォランはクリフォード・シャルと共にこの手法の基本原理を確立し,様々な物質への応用に成功した。彼らは,例えば氷の構造や物質中の磁気モーメントの微細配列といった課題に取り組んだ。シャルはこの功績が讃えられ,1994年カナダのバートラム・ブロックハウスとともにノーベル物理学賞を受賞している(ウォランは1984年に死去していたため受賞できなかった)。

中性子回折は、タンパクなど主に軽元素で構成される物質の構造を、シンクロトロンなどの放射光源よりずっと容易に決定することができる。これは軽元素の中には、重い元素よりも中性子的に大きな衝突断面積を持つものも存在するためである。

中性子回折X線回折よりも優れている点を一つ挙げるなら、X線回折が構造中の水素(H)にあまり感度がないのに対して、中性子は1Hと2H(重水素、D)の両方に強く散乱されることである。すなわち、中性子を用いることで、結晶構造中の水素の位置や熱的な挙動をずっと正確に捉えることができる。さらに水素は中性子に対してbH=-3.7406(11) fm[1]とbD=6.671(4) fm[1]という同位体によって対照的な散乱長を有する。そのため同位体比によっては互いにその寄与を打ち消し合うゼロ散乱(null-scattering)と呼ばれる現象が生じる。この場合、Hの散乱強度は大きな非弾性成分を持つため、散乱角度に無関係な大きなバックグラウンドが生じてしまう。その結果、液体の場合はもちろん、結晶のBragg反射さえもバックグラウンドに埋もれてしまう。

それでも、異なる同位体比の試料を用意することで、散乱のコントラストを変え、周囲の複雑な構造の中で単一の元素を浮かび上がらせることができるというメリットは無視できない。特に水素は同位体比を調整することが比較的容易であり、生体構造の中で重要な役割を果たしていること、他の測定法では分析が難しいことなどから、中性子回折における重要なターゲットとなっている。

 

 

Grass Roots〜sustainable energy as the way you are

バイオプラスチック(bioplastic)とは、生物資源(バイオマス)から作られたプラスチックである。

主にデンプンや糖の含有量の多いトウモロコシやサトウキビなどから製造される。技術的には木、米、生ゴミ、牛乳等からも製造可能であるとされている。

バイオプラスチックの大きな利点は、元来地上にある植物を原料とするため、地上の二酸化炭素の増減に影響を与えないカーボンニュートラルの性質を持っていることである。ただし、従来のプラスチックと同様にバイオプラスチックの製造時にもエネルギーを必要とするため、完全なカーボンニュートラルではないとの意見もある。

バイオマス起源の素材を利用することで地球温暖化対策になる。植物が大気中の二酸化炭素を固定して生成した物質を使ってつくるプラスチックであるため、それを燃焼廃棄しても二酸化炭素の収支はゼロとなる。

焼却する場合、燃焼熱が低い上、ダイオキシン類が発生しない。

バイオプラスチックの多くは生分解性プラスチックとしての性質を持つ。微生物によって水と二酸化炭素に分解され、その二酸化炭素を元に植物が光合成によってデンプンを作り出し、デンプンからまた生分解性プラスチックの原料を作り出すことができるので循環性がある。

生分解性プラスチックは、プラスチックとしての機能や物性に加えて、ある一定の条件の下で自然界に豊富に存在する微生物などの働きによって、分解し最終的には二酸化炭素と水にまで変化する性質を持つプラスチックです。したがって、農業用のマルチフィルムや、食物など有機性廃棄物の堆肥化のための収集袋など、微生物分解性の機能を活用できる分野では、環境負荷低減に寄与することから注目されている素材です、これに対しバイオマスプラスチックは特別な性質を利用するものではなく、原料として植物などの再生可能な有機資源を使用することにより、枯渇が危惧され地球温暖化の一因ともされている石油にできるだけ頼らずに持続的に作ることができることから注目されている新しいプラスチック素材です。
したがって、バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックは、全く異なった2つの概念をもっています。

バイオマスプラスチックの原料に使われる植物などの再生可能資源は、数億年の長い年月をかけて地中に蓄えられた化石資源と異なり、大気中の炭酸ガスを植物の炭酸同化作用(光合成)により吸収した結果蓄えられたものなので、使用後燃焼などにより二酸化炭素に戻っても、地球温暖化の原因と言われている大気中の温室効果ガスの濃度上昇を来たすことがありません。このようにバイオマスプラスチックは人間の快適な生活に必要な自然環境を維持しながら、有用なプラスチック素材を供給できることから、今後より一層の普及が期待されております。

現在、開発が進んでいるバイオマスプラスチックはポリ乳酸(PLA)やポリヒドロキシアルカン酸(PHA)等、かなり以前から存在が知られた化合物ですが、当時は、効率よく原料を製造したり、プラスチックに重合したりする技術がありませんでした。しかし、バイオケミストリーの研究開発が進むにつれ、石油を原料にしなくても、植物由来の原料を使って同じレベルのコストで、色々な化学品が製造できる可能性が高くなってきています。また、精製の技術が進歩したことにより品質的にも向上し、また、プラスチック加工技術の進歩により、広い商品分野で、使える状況になってきています。バイオケミストリーを中心とした技術の進展が、バイオマスプラスチックの製品開発を可能にしてきたといえます。

100%植物から作られている製品は、ほとんどありません。バイオマスプラスチックは原料として化石資源を限定的に使用することができ、バイオマスプラスチック製品は従来のプラスチックと同様に、商品として必要とされる性能や機能を確保するために様々な材料を組み合わせて作られます。このように組み合わせて製品を作ることによって、多くの商品の材料としてバイオマスを使用できる可能性が広がります。バイオマスプラスチックの優位性は、基本的に枯渇性の化石資源をできるだけ使わずに有用なプラスチックを持続的に作れることと、それによって、大気中の二酸化炭素濃度を上昇することを抑制する効果に大きな意味がありますので、高い比率で植物から作られているかというよりは、全体としてどれだけの量が、石油からではなく植物から使われるかが重要になります。

バイオマスプラスチック製品は、原料がバイオマスであるという特徴から、普通のプラスチックと見分けることは簡単にはできません。そこで、バイオマスプラスチック製品につき、一般の消費者にも正確に識別・認知できその普及促進につなげていくため、日本バイオプラスチック協会は、バイオマスプラスチック製品であることを示す「バイオマスプラマーク」を定め、一定の基準をクリアーした商品には、その表示を許諾する「バイオマスプラ識別表示制度」を2007年7月より運営しております。

バイオマスプラ識別表示制度は日本バイオプラスチック協会が運営する、バイオマスプラスチック製品の識別認証マークを一定の基準をクリアーした商品に許諾する制度です。製品中のバイオマスプラスチックの含有量(バイオマスプラスチック度)が25%以上であることが、規準の中心になっています。バイオマスプラスチック製品であることを明確に表示するには相応の使用量であることが、必須であるとの考えに基づいています。

バイオマスプラマークは製品中に基準以上のバイオマスプラスチックが使われているという事実を証明するマークです。マークが付いていることが直接、環境負荷低減を証明するものではありません。環境負荷の低減については、LCAなど、環境負荷の見極めにより別途その効果を確認することが必要です。バイオマスプラスチックは、原料の部分で化石資源を使わないため、その部分の環境負荷は少なくなりますが、その後の加工・使用・廃棄などの各段階での環境負荷を含め、総合的に評価することが必要です。

バイオマスプラスチックの使用量は、未だ全体のプラスチック使用量と比較すると、1%以下で少量ですが、一部の商品でバイオマスプラスチックを使った商品であることをアピールしている商品については、一般のお店でも入手することが可能です。例えば、コンビニエンスストアーで売られているソフトドリンクのラベルの一部。家庭用のラップフィルムのカット刃などがあります。大型量販店での、卵パック、生鮮物の包装などにも一部使われております。

particle accelerator

α線の散乱実験などで業績のあったアーネスト・ラザフォードは、天然放射性物質から出る α 線(エネルギー値 7.7MeV)を窒素原子核に当てることで窒素原子核が破壊されることを発見した(1919年)。これが最初の原子核の破壊実験であった。この発見から、荷電粒子(イオン、電子)に 7.7MeV 程度のエネルギーを持たせる電位をかけて加速し、対象となる原子核に当てる(原子核にエネルギーを与える)ことで人工的に原子核が破壊できるのではないかと考えられた。

1932年にコッククロフト(Cockcroft)とウォルトンWalton)は、当時から良く知られていた倍電圧整流回路を改良拡張することで 800kV の高電圧と、それに耐えるイオン加速管を開発し、加速した陽子を当てることでリチウム原子核を人工的に他の原子核に変換させることに成功した[2]。またこの実験により、特殊相対性理論からの帰結である E = mc2 が定量的に検証されるなど、加速器による原子核研究の端緒を開いた[3]。

この実験の成功を契機に既に盛り上がっていた加速器開発及び原子核研究はさらに勢いを増し、原子核を構成する陽子や中性子も破壊するための巨大加速器の建設が進んで行った。

 

Dyフリー

 TDKは希土類であるネオジム(Nd)の含有量を半減させた高性能磁石を開発し、「CEATEC JAPAN 2014」(幕張メッセ、2014年10月7日~11日)で展示する。
 開発した磁石の最大エネルギー積は40MGOe、キューリー点(磁力を失う温度)は300℃。ネオジム焼結磁石ではそれぞれ35~55MGOe、300℃であるため、ほぼ同等の性能を持つ。しかも、同じ希土類のジスプロシウム(Dy)を含有しない「Dyフリー」である。

 組成は非公表。ただし、「ネオジム焼結磁石の延長線上にある磁石」(TDK)という。ネオジム焼結磁石は「Nd2Fe14B」という組成を持つ。このNdを別の金属で代替し、粒界構造などを工夫することでNdを半減させたとする。

 代替したのは「テルビウム(Tb)やDyではなく、資源枯渇や入手が困難になるリスクが少ない元素」(TDK)とした。製造については既存のネオジム焼結磁石とほぼ同じ工程で作れるという。

 現時点では量産の計画はない。Ndの価格が落ち着いており、Ndを半減させても価格を大きく下げることが難しいためとみられる。「資源調達リスクを減らすため、現在幾つかのアプローチで希土類を含まない磁石を研究している。今回、DyフリーでNdを半減できるという一定の成果が出たため、展示することにした」(TDK)という。

結晶粒界(けっしょうりゅうかい、Grain boundary)は、多結晶体において二つ以上の小さな結晶の間に存在する界面。

液体が冷却されるなどして固体になるとき、始めに多数の微小な結晶(結晶粒)が形成され、それぞれが別々に成長して多結晶体になる。このとき個々の結晶の方向を揃えておくことは困難である。一方、個々の粒子が単結晶からなる粉末を焼結させる過程においても、あらかじめ結晶の方向を揃えたり途中で結晶の方向を変えたりすることは困難である。いずれの場合も形成された多結晶体を構成する結晶は隣接する結晶と方向が異なっている。すなわち結晶と別の結晶との間に残された不連続な境界面が結晶粒界となる。

高温において結晶に応力が加わると、結晶に含まれる転位が二次元的に配列して一つの面を構成するようになる。この面を境にして結晶の方向が変化することから、この結晶はすでに二つの結晶に分かれていると見なすことができる。すなわちこの境界面が結晶粒界となる。

結晶粒界は転位の集合体とみなすことができるため、その性質を転位の性質から予測することができる。刃状転位が集合すると傾斜型の結晶粒界となり、らせん転位が集合するとねじれ型の結晶粒界となる。このとき転位の集合密度が大きいほど結晶方向の違いが大きくなる。結晶方向の違いが小さい結晶粒界は特に小傾角粒界または小ねじれ角粒界と呼ばれ、転位の集合体としての性質を示すが、結晶方向の違いが大きくなると単純に転位の集合体として性質を説明することはできなくなる。

結晶粒界が存在しない物体より結晶粒界が存在する物体の方がエネルギーが高い状態にあり、その差を結晶粒界の面積あたりに換算したものは粒界エネルギーと呼ばれる。小傾角粒界または小ねじれ角粒界において粒界エネルギーは両側の結晶の方向に差があるほど大きくなる。これは粒界エネルギーを転位の持つエネルギーの合計として記述できるためである。

結晶粒界は広い意味で格子欠陥の一種であり、点欠陥の集合体としての性質を示す。例えば拡散速度を大きくしたり電荷を帯びたりする。結晶粒界の影響によって結晶内部に新たな格子欠陥が形成されることもある。このため一般に、結晶内部より結晶粒界付近の方が格子欠陥濃度が大きく、従って拡散速度も大きい。結晶粒界における拡散現象は特に粒界拡散と呼ばれる。

液体から結晶成長する過程において不純物は結晶内部に取り込まれにくいため、結晶粒界には不純物が残留しやすい。また、液相焼結を行った場合には、しばしば結晶粒界にアモルファスなどの異物が残留する。

結晶粒界は結晶内部と比較して強度が小さいため、しばしば物体が破壊する起点となる。特に強度差が大きい場合、粒界に沿って破壊が進行することもある。また結晶粒界においてエッチングや腐食は加速される。この性質を利用して粒界を選択的にエッチングする方法によりその構造を観察することができる。

点欠陥は格子欠陥の一種である。結晶物質を構成する原子は規則的な配列(結晶格子)を持つが、完全に規則正しくならんでいるということはなく様々な欠陥が含まれている。そのうち、広がりを持たない点状の欠陥については点欠陥という。代表的な点欠陥には、不純物原子による置換(異種原子)、不純物が格子間に紛れ込んだもの(格子間原子)、原子空孔、フレンケル欠陥、アンチサイト欠陥がある。

アモルファス (amorphous)、あるいは 非晶質(ひしょうしつ)とは、結晶のような長距離秩序はないが、短距離秩序はある物質の状態。これは熱力学的には、非平衡な準安定状態である。

amorphous は、morphous(形を持つ)に「非」の意味の接頭辞 a‐ が付いた語(19世紀にスウェーデンのイェンス・ベルセリウスが非結晶の固体に対して命名した[1])。結晶は、明礬や水晶のようにそれぞれ固有の結晶形態を持っており、morphous である。しかし、急冷や不純物が混じった状態で出来た固体は、時間的空間的に規則的な原子配列が取れず非晶質となり、不定形である。

アモルファス状態は、非金属ではしばしば見られる状態である。しかし、金属にもアモルファス状態が存在することは、アメリカのポール・デュエイ (Pol Duwez) カリフォルニア工科大学教授らが1960年に発見した。

 

conditionally complete lattice〜完備束か、完備束から最大元 1 を除いたものか、完備束から最小元 0 を除いたものか、あるいは完備束から最大元と最小元の両方を取り除いたもの

数学における束(そく、英語: lattice)は、任意の二元集合が一意的な上限(最小上界、二元の結びとも呼ばれる)および下限(最大下界、二元の交わりとも呼ばれる)を持つ半順序集合である。それと同時に、ある種の公理的恒等式を満足する代数的構造としても定義できる。二つの定義が同値であることにより、束論は順序集合論と普遍代数学の双方の領域に属することとなる。さらに、半束 (semilattice) の概念は束の概念を含み、さらにハイティング代数ブール代数の概念も含む。これら束に関連する構造は全て順序集合としても代数系としても記述することができるという特徴を持つ。

半順序集合 (L, ≤) が束であるとは、以下の二条件が満足されるときに言う。

二元の結びの存在
L の任意の二元 a, b に対して、二元集合 {a, b} が結び(上限、最小上界、和) a ∨ b を持つ。
二元の交わりの存在
L の任意の二元 a, b に対して、二元集合 {a, b} が交わり(下限、最大下界、積) a ∧ b を持つ。
これにより、∨ および ∧ は L 上の二項演算となる。最初の条件は L が結び半束 (join-semilattice) となることを主張するものであり、後の条件は L が交わり半束 (meet-semilattice) となることをいうものである。二つの演算はその順序に関して単調である。すなわち、a1 ≤ a2 かつ b1 ≤ b2 ならば

a
1

b
1

a
2

b
2
,
a
1

b
1

a
2

b
2
a_{1}\lor b_{1}\leq a_{2}\lor b_{2},\quad a_{1}\land b_{1}\leq a_{2}\land b_{2}
がともに成り立つ。

このとき、帰納的に、束の任意の空でない有限集合に対して、その結び(上限)および交わり(下限)の存在が示せる。さらに仮定を増やせば、もっといろいろなことが言える場合もある。完備性等を参照。そういった文脈では、上記の定義をもっと別の方法、例えば適当なガロワ接続の存在によって定義することもできる(これは束に対するある種のガロワ理論的な手法である)[要出典]。

有界束 (bounded lattice) は 1 で表される最大元 (greatest element, maximum, top (⊤)) および 0 で表される最小元 (least element, minimum, bottom (⊥)) を持つ束である。任意の束は最大元と最小元を付加することにより有界束とすることができる。また、空でない任意の有限束は有界である(全ての元の結びおよび交わりが最大元及び最小元を与える)。すなわち、A = {a1, …, an} ならば

1=⊤ :=⋁A (=
a
1
∨⋯∨
a
n
), 0=⊥ :=⋀A (=
a
1
∧⋯∧
a
n
){\begin{aligned}1=\top &:=\bigvee A&&(=a_{1}\lor \cdots \lor a_{n}),\\0=\bot &:=\bigwedge A&&(=a_{1}\land \cdots \land a_{n})\end{aligned}}
が成り立つ。

半順序集合が束となる必要十分条件は、任意の有限部分集合(零元集合としての空集合を含む意味で言う)が結びおよび交わりを持つことである。ここで、空集合に関する結びは最小元、空集合に関する交わりは最大元となるものと約束する。



=
0
,


=
1.
\bigvee \varnothing =0,\quad \bigwedge \varnothing =1.
この規約は、結びおよび交わりの結合性および可換性に整合性を持たせるためのものである。すなわち、有限集合の族の和集合の結びはそれらの集合の結びの結びに一致し、双対的に、有限集合の族の和集合の交わりがそれらの集合の交わりの交わりとなる。これは、具体的に束 L の有限部分集合を A, B とすると、


(
A

B
)
=
(

A
)

(

B
)
, ⋀
(
A

B
)
=
(

A
)

(

B
)
{\begin{aligned}\bigvee \left(A\cup B\right)&=\left(\bigvee A\right)\vee \left(\bigvee B\right),\\\bigwedge \left(A\cup B\right)&=\left(\bigwedge A\right)\wedge \left(\bigwedge B\right)\end{aligned}}
がともに成り立つという意味である。ここで B として空集合を取ると


(
A


)
=
(

A
)

(


)
=
(

A
)
∨0=⋁A, ⋀
(
A


)
=
(

A
)

(


)
=
(

A
)
∧1=⋀A{\begin{aligned}\bigvee \left(A\cup \emptyset \right)&=\left(\bigvee A\right)\vee \left(\bigvee \emptyset \right)=\left(\bigvee A\right)\vee 0=\bigvee A,\\\bigwedge \left(A\cup \emptyset \right)&=\left(\bigwedge A\right)\wedge \left(\bigwedge \emptyset \right)=\left(\bigwedge A\right)\wedge 1=\bigwedge A\end{aligned}}
となり、これは A ∪ ∅ = A であるという事実と整合する。

集合 L および L 上の二項演算 ∨, ∧ からなる代数的構造 (L, ∨, ∧) が束であるとは、L の任意の元 a, b, c に対して以下の公理的な恒等式を満足するときに言う。

可換律 結合律 吸収律
a

b
=
b

a
a\lor b=b\lor a
a

(
b

c
)
=
(
a

b
)

c
a\lor (b\lor c)=(a\lor b)\lor c
a

(
a

b
)
=
a
a\lor (a\land b)=a
a

b
=
b

a
a\land b=b\land a
a

(
b

c
)
=
(
a

b
)

c
a\land (b\land c)=(a\land b)\land c
a

(
a

b
)
=
a
a\land (a\lor b)=a
さらに以下の二つの恒等式を公理として仮定することも多いが、実際には吸収律を二度使うことで導くことが可能である[* 1]

冪等律
a

a
=
a
,
a

a
=
a
.
a\lor a=a,\quad a\land a=a.
これらの公理は (L, ∨) および (L, ∧) がともに半束となることを要請するものである。また吸収律は(公理のうちこれだけが条件式に結びと交わりの両方が現れているので)、これによって束が、単にかってな半束の対ということではなく、対となる二つの半束のあいだに適切な相互関係があることを仮定するものとなっている。特に、互いの半束の間に双対性が見て取れる。

代数的な意味での有界束とは代数的構造 (L, ∨, ∧, 1, 0) であって、(L, ∨, ∧) は束であり、(束の最小元となるべき)0 が結び ∨ に関する単位元で、(束の最大元となるべき)1 が交わり ∧ に関する単位元となるものをいう。さらなる詳細は半束の項に譲る。

束はある種の群に似た代数的構造と関連がある。実際、交わりも結びも結合的かつ可換なので、束を台を共有するふたつの可換半群の対と看做すことができる。有界束ならば、この二つの半群は実際には可換モノイドになる。吸収律だけが、束論に特有の定義式である。

可換性と結合性により、結びや交わりを二項ではなく空でない任意の有限集合上の演算として考えることもできる。有界束の場合には、空集合に関する結び(空和)と空集合に関する交わり(空積)をそれぞれ 0 と 1 として定義することができる。このことは、有界束がある意味で一般の束よりも自然であるという見方を与えるものであって、しばしば、単に束といえば有界束のことを意味するという文献があるので注意が必要である。

このような束の代数的な解釈は普遍代数学において本質的な役割を果たす。

以下、いくつか意味のある束のクラスを定めるさまざまに重要な束の性質について述べる。なお、そのうちの一つ、有界性についてはすでに述べてあることを注記する。

半順序集合が完備束 (complete lattice) であるとは、その任意の部分集合が交わりと結びを持つときに言う。特に任意の完備束は有界束である。有限束の準同型は有限な交わりおよび結びしか保存しないが、完備束の準同型では任意濃度の交わりと結びを保つことを要請する。

任意の半順序集合はそれが完備半束であるならば完備束となる。この事実に関する面白い現象として、このクラスの半順序集合に対しては、いくつもの準同型を同時並行的に考えることができるということが挙げられる(つまり、それを完備束とみるか、完備結び半束とみるか、完備交わり半束とみるか、結び完備束とみるか交わり完備束とみるか、それぞれの意味での準同型を考えうる)。

条件付き完備束 (conditionally complete lattice) とは任意の空でない上に有界な部分集合が結び(最小上界)を持つことをいう。このような束は実数全体の集合に対する完備性公理を最も直接に一般化するものである。条件付き完備束は、完備束か、完備束から最大元 1 を除いたものか、完備束から最小元 0 を除いたものか、あるいは完備束から最大元と最小元の両方を取り除いたものかのいずれかである。

応用に際して、分配性条件は強すぎる制約となることがあり、次のようなより弱い性質を考えると便利なことがよくある。束 (L, ∨, ∧) がモジュラー (modular) であるとは L の各元 a, b, c に対して

モジュラー恒等式
(a ∧ c) ∨ (b ∧ c) = [(a ∧ c) ∨ b] ∧ c
が成立するときにいう。この条件は次の条件と同値である。

モジュラー律
a ≤ c ならば a ∨ (b ∧ c) = (a ∨ b) ∧ c.
束がモジュラーである必要十分条件は N5 (右図)と同型な部分束を含まないことである[7][8]。 分配束はモジュラーだが、分配束とは限らないモジュラー束の例として、加群の部分加群全体の成す束や、群の正規部分群全体の成す束が挙げられる。

モジュラー性でも強すぎるときに(上)半モジュラーと呼ばれる次のような性質を課すことがある。 束 L が (上)半モジュラー ((upper)semimodular) であるとは

半モジュラー律
a ∧ b <: a ならば b <: a ∨ b。
が成立するときにいう。ただしここで a <: b とは b が a を被覆する、すなわち a < b であり a < c < b となるような c が存在しないこと。

上半モジュラーの双対概念を下半モジュラーという。 モジュラー束は上及び下半モジュラーだが逆は一般には成立しない。しかし有限束などでは両者は一致する。

半モジュラーの更なる一般化として 弱半モジュラー (weakly semimodular) 又はバーコフ条件と言われる以下の条件がある

バーコフ条件
a ∧ b <: a かつ a ∧ b <: b ならば a <: a ∨ b かつ b <: a ∨ b。
任意の半モジュラー束は弱半モジュラー束である。