四フッ化キセノン

キセノン(英: xenon)は原子番号54の元素。元素記号は Xe。希ガス元素の一つ。ラムゼー (W. Ramsay) とトラバース (M. W. Travers) によって1898年に発見された[3]。ギリシャ語で「奇妙な」「なじみにくいもの」を意味する ξένος (xenos) の中性単数形の ξένον (xenon) が語源。英語圏ではゼノン (/ˈzɛnɒn/, /ˈziːnɒn/) と発音されることが多い。

常温常圧では無色無臭の気体。融点-111.9 °C、沸点-108.1 °C。空気中にもごく僅かに(約0.087 ppm)含まれる。固体では安定な面心立方構造をとる。

一般に希ガスは最外殻電子が閉殻構造をとるため、反応性はほとんど見られない。しかし、キセノンの最外殻 (5s25p6) は原子核からの距離が離れているため、他の電子による遮蔽効果によって束縛が弱まっており、比較的イオン化しやすい(イオン化エネルギーが他の希ガス元素に比べて相対的に低い)。このため、反応性の強いフッ素や酸素と反応して、フッ化物や酸化物を形成する。

暗黒物質ダークマター)の直接検出を目論んでいるXMASS検出器では、暗黒物質を検出するために-100 °Cの液体キセノンで満たしたセンサーが用いられる。これは暗黒物質がキセノン原子核と衝突して放つシンチレーション光を光電子増倍管で補捉する仕組みで、東京大学の神岡宇宙素粒子研究施設で2011年春から稼動予定であった[7][8]が、2010年からの試運転の結果、検出器を構成する素材が予想外に多くのバックグランドを含んでいることが判明、そのバックグランドを減らす改修が行われ2013年11月に再運転し[9][10]観測が行われている。

空気中からの単独精製は行われず、液体酸素・液体窒素・液化アルゴンを生産するために断熱膨張(ジュール=トムソン効果)により液化した空気からの分留残(副産物)から回収精製される[11]。

キセノンはフッ素単体の混合比を調節してニッケル管中で加熱し、急冷すると四フッ化キセノン XeF4 あるいは二フッ化キセノン XeF2 を生成し、加圧条件下で同様に加熱すると六フッ化キセノン XeF6 を与える。

いずれのフッ化物も水に容易に加水分解される。XeF6、XeF4 は強力なフッ素化剤である。XeF4 はベンゼンなどの芳香族化合物の水素をフッ素化することができ、XeF6 に至っては石英とさえ反応し SiF4 を与える。また、XeF2 は温和なフッ素化試剤として利用される。

二フッ化キセノン(にフッかキセノン、Xenon difluoride、XeF2)は、キセノン化合物でもっとも安定なものの1つであり、強力なフッ化剤である。大部分の共有結合性無機フッ化物のように水分に敏感である。高密度の白色結晶で、光や水に接すると分解する。不快臭を持つが、蒸気圧は低い (Weeks, 1966)。分子構造は直線形である。 550 cm-1 と 556 cm-1 に特徴的な赤外線吸収のダブレットを示す。市販品が入手可能。

二フッ化キセノンは加圧条件下300℃でキセノンと二フッ化酸素をニッケルチューブ中で化合させることで初めて作られた。現在、二フッ化キセノンはキセノンとフッ素から作ることが可能である。

合成は単純な反応式 Xe + F2 → XeF2 で進行し、反応を進めるには熱、放射線または電気放電を必要とする。生成するのは気体であるが、-30℃で液化させることができる。それは分留、またはバキュームラインによる選択的液化によって精製される。

XeF2 の合成法はアルゴンヌ国立研究所の Weeks、Cherwick、Matheson によって1962年に初めて報告された。彼らはサファイアウインドウとオールニッケルシステムを使った。低圧条件下、紫外線を照射することにより Xe と F2 ガスを等量反応させると XeF2 が得られる。Williamson は、同様に大気圧条件下で乾燥させた球状のパイレックスガラスで太陽光を当てて行ったと報告した。合成は、一様に曇った日に行うよう注意された。

先の合成では、反応に使う F2 は H2 を除く為に精製されたが、Šmalc と Lutar はこのステップを飛ばすと反応速度がもとの4倍になることを発見した。

AsF6 が付随するとき、XeF2 は配位錯体の配位子となることができる。その例の一つにフッ化水素溶液中での反応がある。

Mg
(
AsF
6
)
2

+
4
XeF
2


[
Mg
(
XeF
2
)
4
]
(
AsF
6
)
2
{\displaystyle {\ce {Mg(AsF6)2\ +4XeF2->\ [Mg(XeF2)4](AsF6)2}}}
結晶解析から、マグネシウムには6個のフッ素原子が配位していることが示された。フッ素の4つは4つの XeF2 配位子、他の2つのフッ素は cis AsF6 配位子に由来すると考えられる。単純な反応は、

Mg
(
AsF
6
)
2

+
2
XeF
2


[
Mg
(
XeF
2
)
2
]
(
AsF
6
)
2
{\displaystyle {\ce {Mg(AsF6)2\ +2XeF2->\ [Mg(XeF2)2](AsF6)2}}}
この生成物の結晶構造では、マグネシウムは八面体配位、XeF2 配位子はアキシアル、AsF6 配位子はエカトリアルに位置する。

多くの
[
M
+
(
XeF
2
)
n
]
(
AF
6
)
x
{\displaystyle {\ce {[M^{+}(XeF2)n](AF6)x}}} 形成の反応から M が Ca, Sr, Ba, Pb, Ag, La, Nd、そして、A が As, Sb, P のものが観測された。

XeF2 のフッ素が金属に単独配位した化合物の反応は、

2
Ca
(
AsF
6
)
2

+
9
XeF
2

Ca
2
(
XeF
2
)
9
(
AsF
6
)
4
{\displaystyle {\ce {2Ca(AsF6)2\ +9XeF2->Ca2(XeF2)9(AsF6)4}}}
この反応は大過剰の XeF2 を必要とする。その塩は、Ca イオンの1/2が XeF2 由来のフッ素原子に配位しており、一方別の Ca イオンの配位圏は XeF2 と AsF6 の両方の配位子が支えている構造をしている。

無機の酸化的フッ素化の例

Ph
3
TeF

+
XeF
2

Ph
3
TeF
3

+
Xe

二フッ化キセノンはカルボン酸を対応するフルオロアルカンに変える。このとき酸化的な脱炭酸が起こる。

RCO
2
H

+
XeF
2

RF

+
CO
2

+
Xe

+
HF