計算機科学や理論物理学などさまざまな分野の背後にある共通の構造が圏論によって明らかにされてきている。

近年,量子計算機の開発が実用化に向けて加速してきているが,量子計算機におけるプログラムは古典的な計算機のプログラムとは異なる計算モデルに基づく。そのため,これまで古典的な計算機で使われてきたソフトウェアの正当性検証手法をそのまま使うわけにはいかない。本書の冒頭でも述べられているように,プログラムの正当性を保証できなければ,重要な仕事に量子計算機を使おうとするものはいないだろう。直感に反する振る舞いが生じる量子的状況における確固たる基礎を構築するためには数学の力が必要になる。圏論という道具を使うことによって,直感に反する量子状態のさまざまな特徴がどの前提から生じるものであるのかを浮き彫りにしてくれる。

1章から2章にかけて,圏,関手,射,自然変換,随伴などの基本的な用語の定義・定理を行なう。3章以降でモナド,擬圏などの発展的なトピックを扱い,圏論分野における近年の研究状況を提供する。

物理学の土台の1つ,熱力学の基礎から宇宙への応用までを丁寧に解説した教科書・参考書である。熱力学は2つの経験則だけを前提にして組み立てるので,数学的に厳密に理論を展開していく必要がある。熱力学第1法則では,従来の2種類の熱容量に加えて,2種類の等温潜熱を合わせて4種類をパラメタとして,第1法則から得られる全てを定式化した。後者は近年の熱力学では忘れられていた量である。特にレシュの定理(この名称も全ての教科書で忘れられている)を第1法則だけから導いた。また熱力学にとってもっとも適切な微分形式を並行して使っている。仕事と熱量が微分1形式である,というのが要点である。具体例としては理想気体,ファン・デル・ワールス気体,光子気体を一貫して取り上げた。エントロピーの導入は,カルノーサイクルではなく,カラテオドリの定理によっている。熱力学第2法則では熱力学関数の安定性について徹底的に論じた。本書の他にない特徴は相対論的熱力学を取り上げたことで,内外の教科書でも例がない。アインシュタインは,初期に発表した相対論的熱力学を最晩年に翻す手紙を残した。本書ではアインシュタインが示唆した結果を証明してある。ランダウ-リフシッツの教科書とも矛盾しない結果である。また,相対論的統計力学でも18世紀のベルヌーリの公式が生き残っていることを示してある。相対論的熱力学を宇宙背景輻射とブラックホールに適用した2章も付け加えてある。

与えられた条件を満たす図形の数を数えてみよう! 代数幾何学組み合わせ論、表現論、数理物理学などさまざまな分野に現れる数え上げ問題。あなたも講義に参加し、線型代数学を活用して実際に計算しながら、数える楽しみを味わってみませんか。

【主要目次】
はじめに
講義の前に――4本の直線をめぐる対話
I グラスマン多様体とシューア多項式
第1講 射影空間とベズーの定理
第2講 グラスマン多様体
第3講 グラスマン多様体の交叉理論――シンボル計算
第4講 ピエリの規則、ジャンベリの公式
第5講 シューア多項式
II チャーン類とその応用
第6講 直線束とチャーン類
第7講 グラスマン多様体上のベクトル束
III 旗多様体シューベルト多項式
第8講 旗多様体
第9講 旗多様体の交叉理論
第10講 シューベルト多項式
補講A 線型代数について
補講B 代数幾何学から
補講C 交叉環
問題の解答例

計算代数統計とは,代数学の理論を利用して統計学の諸問題に取り組む,比較的新しい研究分野をいう。統計学の諸概念を代数的にとらえ,必要なら再定義して,代数幾何,可換代数,組み合わせ幾何などの理論を駆使して研究するという,分野横断的な側面をもつ。グレブナー基底は,これらの理論を繋ぐキーワードのひとつである。計算代数統計は,90年代の初めに発表された2つの論文を契機に誕生し,以後20年間で,代数学,統計学の両分野の研究者の精力的な研究により,急速に進展した。その背景には,グレブナー基底の理論と計算代数ソフトウェアの発展がある。現在では,簡単な問題であれば,手元の計算機で手軽に計算を実行して出力を確認することができ,このことは,計算代数統計を学ぶ最大の魅力である。
線型代数の基礎知識を学んでいる読者を想定し,身近な例を題材にグレブナー基底の導入を行った後,計算代数統計の発端となった研究のひとつである,実験計画法への応用を説明する。豊富な例題を通して,計画,交絡,識別性などの統計学の概念を,代数幾何的に扱う方法を理解するのが本書の目標である。また,実際に計算する楽しさを体験するために,手軽に実行できるフリーソフトウェア Macaulay2による計算コードを掲載している。