関数解析学において、ラプラス変換(ラプラスへんかん、英: Laplace transform)とは、積分で定義される関数空間の間の写像(線型作用素)の一種。関数変換。
ラプラス変換の名はピエール=シモン・ラプラスにちなむ。
ラプラス変換によりある種の微分・積分は積などの代数的な演算に置き換わるため、制御工学などにおいて時間領域の(とくに超越的な)関数を別の領域の(おもに代数的な)関数に変換することにより、計算方法の見通しを良くするための数学的な道具として用いられる。
フーリエ変換を発展させて、より実用本位で作られた計算手法である。1899年に電気技師であったオリヴァー・ヘヴィサイドが回路方程式を解くための実用的な演算子を経験則として考案して発表し、後に数学者がその演算子に対し厳密に理論的な裏付けを行った経緯がある。理論的な根拠が曖昧なままで発表されたため、この計算手法に対する懐疑的な声も多かった。この「ヘヴィサイドの演算子」の発表の後に、多くの数学者達により数学的な基盤は1780年の数学者ピエール=シモン・ラプラスの著作にある事が指摘された(この著作においてラプラス変換の公式が頻繁に現れていた)。
従って、数学の中ではかなり応用寄りの分野である。ラプラス変換の理論は微分積分、線形代数、ベクトル解析、フーリエ解析、複素解析を基盤としているため、理解するためにはそれらの分野を習得するべきである。
これと類似の解法として、より数学的な側面から作られた演算子法がある。こちらは演算子の記号を多項式に見立て、代数的に変形し、公式に基づいて特解を求める方法である。
実数 t ≥ 0 について定義された関数 f (t) のラプラス変換とは
F
(
s
)
=
∫
0
∞
f
(
t
)
e
−
s
t
d
t
{displaystyle F(s)=int _{0}^{infty }f(t)mathrm {e} ^{-st}mathrm {d} t}
で定義される s の関数 F(s) のことである。ここで s は複素数であり、2 つの実数 σ, ω を用いて s = σ + iω と表すことができる(i は虚数単位)。右辺の積分はラプラス積分 (Laplace integral) と呼ばれる。これは時間領域から複素平面への写像である。
また、c > 0 として、関数 F(s) から元の関数 f (t) を計算することを逆ラプラス変換 (inverse Laplace transform) といい、
f
(
t
)
=
lim
p
→
∞
1
2
π
i
∫
c
−
i
p
c
+
i
p
F
(
s
)
e
s
t
d
s
{displaystyle f(t)=lim _{p o infty }{rac {1}{2pi i}}int _{c-ip}^{c+ip}F(s)mathrm {e} ^{st},mathrm {d} s}
のように定義されている。右辺の積分はブロムウィッチ積分 (Bromwich integral) と呼ばれる。これは複素平面から時間領域への写像である。
これは複素積分となっている。定義通りの積分経路では計算が難しくなるが、閉曲線となるように積分経路を変更して留数を計算することにより簡単に逆ラプラス変換を求める事が可能となる。結果を言えば複素平面上の全ての特異点の留数の総和となる。ここで、f (t) を原関数 (original function)、F(s) を像関数 (image function) という。
ラプラス変換の他の記述の仕方として、次のようなものもある。
F
(
s
)
=
L
[
f
(
t
)
]
{displaystyle F(s)={mathcal {L}}[f(t)]}
同様に逆ラプラス変換は、次のようにも記述される。
f
(
t
)
=
L
−
1
[
F
(
s
)
]
{displaystyle f(t)={mathcal {L}}^{-1}[F(s)]}
また、これらの記号を用いた写像
L
: f↦F,
L
−
1
:F↦f{egin{aligned}{mathcal {L}}&colon ~fmapsto F,\{mathcal {L}}^{{-1}}&colon Fmapsto fend{aligned}}
普通、ラプラス変換および逆ラプラス変換を行う際には変換表を参照して計算する場合が多いので、前述した定義式にしたがって計算することは少ない。だが場合によっては定義式から計算したほうが簡単なときもある。たとえば逆ラプラス変換をする際に部分分数分解をしなければならない場合、むしろブロムウィッチ積分を計算したほうが早いことも多い。
注:
ラプラス変換は、関数 f (t) にいったん e−σtθ(t) を乗じてからフーリエ変換する操作であると考えることができる(ここで θ(t) はステップ関数である)。
F
(
s
)
:=
F
(
σ
,
ω
)
=
∫
−
∞
∞
θ
(
t
)
f
(
t
)
e
−
σ
t
e
−
i
ω
t
d
t
=
=
s
=
σ
+
i
ω
∫
0
∞
f
(
t
)
e
−
s
t
d
t
両側ラプラス変換は積分区間を全実数域へと拡張したもので、以下のように定義される。
F
(
s
)
=
L
{
f
(
t
)
}
=
∫
−
∞
∞
e
−
s
t
f
(
t
)
d
t
数列 an の(通常型)母関数
G
(
a
n
;
x
)
=
∑
n
a
n
x
n
G(a_{n};x)=sum _{n}a_{n}x^{n},
において x = e−s とすると、
G
(
a
n
;
e
−
s
)
=
∑
n
a
n
e
−
s
n
G(a_{n};{mathrm {e}}^{{-s}})=sum _{n}a_{n}{mathrm {e}}^{{-sn}},
となる。 ここで和を積分に変えれば
G
(
a
t
;
e
−
s
)
=
∫
a
t
e
−
s
t
d
t
{displaystyle G(a_{t};mathrm {e} ^{-s})=int a_{t}mathrm {e} ^{-st}mathrm {d} t,}
となり、関数 at のラプラス変換と一致する。この意味においてラプラス変換は母関数の「連続版」とみなすことができる。 こうした理由により、母関数とラプラス変換は同種の性質を満たすことがある。たとえば母関数の性質
G
(
a
n
;
x
)
G
(
b
n
;
x
)
=
G
(
a
n
∗
b
n
;
x
)
G(a_{n};x)G(b_{n};x)=G(a_{n}*b_{n};x),
はラプラス変換の性質
L
[
f
]
(
s
)
L
[
g
]
(
s
)
=
L
[
f
∗
g
]
(
s
)
{mathcal {L}}[f](s){mathcal {L}}[g](s)={mathcal {L}}[f*g](s),
に対応する。ここで * は畳み込み積。
2つの正方形による畳み込み。解として得る波形は三角波となる。黄色の領域で示されている面積が2つの方形波の合成積である。
正方形がRC回路に入力された場合の出力信号波形を得るために、RC回路のインパルス応答と方形波の畳み込みを行っている。 黄色の領域で示されている面積が合成積である。
畳み込み(たたみこみ、英: convolution)とは関数 g を平行移動しながら関数 f に重ね足し合わせる二項演算である。畳み込み積分、合成積、重畳積分、あるいは英語に倣いコンボリューションとも呼ばれる。
L
L
−
1
=
L
−
1
L
=
I
{displaystyle {mathcal {L}}{mathcal {L}}^{-1}={mathcal {L}}^{-1}{mathcal {L}}=I}
ここで、I は恒等変換を表わす。
ラプラス変換は線型性を持ち、したがって特に重ね合わせの原理 を用いて計算することが可能である。ラプラス変換が線型性を持つとは、任意の関数 f(t), g(t) に対して
L
[
a
f
(
t
)
+
b
g
(
t
)
]
=
a
F
(
s
)
+
b
G
(
s
)
{mathcal {L}}[af(t)+bg(t)]=aF(s)+bG(s)
が成り立つということである。ただし、a, b は t に関係しない定数。逆ラプラス変換も同様に線形性を持ち、
L
−
1
[
a
F
(
s
)
+
b
G
(
s
)
]
=
a
f
(
t
)
+
b
g
(
t
)
{mathcal {L}}^{{-1}}[aF(s)+bG(s)]=af(t)+bg(t)
が成り立つ。したがって、与えられた関数を部分分数分解できるとき、各因子がラプラス変換の表にあるものに合致すれば、その変換が求められる。
関数解析学において、Z変換(ゼッドへんかん、Z-transform)とは、離散群上で定義される、ローラン展開をベースにした関数空間の間の線形作用素。関数変換。
Z変換は離散群上でのラプラス変換とも説明される。なお、Z変換という呼び方は、ラプラス変換のことを「S変換」と呼んでいるようなものであり、定義式中の遅延要素であるzに由来する名前である。
列xnのZ変換は以下の式で定義される:
Z
[
x
n
]
=
X
(
z
)
=
∑
n
=
−
∞
∞
x
n
z
−
n
{\displaystyle {\mathcal {Z}}[x_{n}]=X(z)=\sum _{n=-\infty }^{\infty }x_{n}z^{-n}}
ここでnは整数でzは複素数である。なお後述の片側Z変換に対してこれを両側Z変換(two-sided Z-transform、bilateral Z-transform)と呼ばれる。
n<0 でxn=0のような場合は、総和の範囲を 0 〜 ∞ で計算できる:
Z
[
x
n
]
=
X
(
z
)
=
∑
n
=
0
∞
x
n
z
−
n
{\displaystyle {\mathcal {Z}}[x_{n}]=X(z)=\sum _{n=0}^{\infty }x_{n}z^{-n}}
これを元の定義と区別して片側Z変換(single-sided Z-transform、unilateral Z-transform)と呼ぶこともある。工学の分野などでは因果律を想定するので、こちらの式で定義することがある。
二次元信号(例えば画像)に対する二次元Z変換の定義は類似的である:
Z
[
x
(
n
1
,
n
2
)
]
=
X
(
z
1
,
z
2
)
=
∑
n
1
=
−
∞
∞
∑
n
2
=
−
∞
∞
x
(
n
1
,
n
2
)
z
1
−
n
1
z
2
−
n
2
なお、Z変換の級数は一般には発散することがある。収束するzの領域(収束領域,Region of Convergence)を以下のように書ける:
ROC
=
{
z
:
∑
n
=
−
∞
∞
x
n
z
−
n
<
∞
}
{\displaystyle {\mbox{ROC}}=\left\{z:\sum _{n=-\infty }^{\infty }x_{n}z^{-n}<\infty \right\}}
厳密にはこの収束領域内においてのX(z)を、xnのZ変換と定義する。
二次元Z変換の収束領域の定義は類似する:
ROC
=
{
(
z
1
,
z
2
)
:
∑
n
1
=
−
∞
∞
∑
n
2
=
−
∞
∞
x
(
n
1
,
n
2
)
z
1
−
n
1
z
2
−
n
2
<
∞
}
Z変換の逆変換である逆Z変換(inverse Z-transform)は次のようになる:
x
n
=
Z
−
1
[
X
(
z
)
]
=
1
2
π
i
∮
C
X
(
z
)
z
n
−
1
d
z
{\displaystyle x_{n}={\mathcal {Z}}^{-1}[X(z)]={\frac {1}{2\pi i}}\oint _{C}X(z)z^{n-1}\,dz}
ここでiは虚数単位で積分路CはX(z)の極を全て含むような閉路である。
なおこの式は留数定理を用いて留数の和として計算することができる。しかし、手計算で計算するときは以下の方法がよく使われる:
X(z)が既に級数展開されている場合、z-kの係数をxkの値とすることで簡単に逆変換ができる。例えば、z+2-3z-1の逆変換は { ..., 0, x-1=1,x0=2,x1=-3, 0, ...} のように係数をならべるだけで得られる。
X(z)を部分分数分解し、各々の部分分数を変換表を用いて逆変換したものの和として逆変換を得る。
いずれにせよ、定義に示した積分計算そのものを直接計算することは稀である。