数論における分割数(ぶんかつすう、英: partition function) p(n) は自然数 n の分割(n をその順番の違いを除いて自然数の和として表す方法)の総数を表す数論的函数である。ただし、規約として p(0) = 1 および負の整数に対して p(n) = 0 と定める。

アトル・セルバーク(Atle Selberg, 1917年6月14日 - 2007年8月6日 )はノルウェーの数学者。解析的整数論や保型函数における業績で有名、特にそれらをスペクトル理論によって関連付けた。父や兄のHenrik(1904-1993)、Sigmund(1910-1994)も数学者。

ノルウェーのLangesundに九人兄弟姉妹の末子として生まれる。少年期の逸話として、14歳の時にヨハン・ベルヌーイによる(1697)とされる一公式


を独力で発見したというものがある。すでに大学入学前には、最初の論文を執筆していた。学生の時分よりラマヌジャンの仕事に影響を受け、其論文をヒントに、自身の告白によれば、二十歳の頃ラーデマッハーとは独立に分割数の解析的表現を発見したという。1943年にオスロ大学よりPh.D.を授かる。

大戦時にはドイツ軍のノルウェー侵攻と戦い何度かの投獄を経験し、占領下の孤立した環境で研究を続けていたため、戦後になってようやく彼の仕事が広く知られるようになった。特にゼータ函数の研究が著しくこの頃の結果として、ゼータ函数の零点は少なくともある割合は臨界線 上にあることなどを示していた。1947年の論文で現在セルバーグの篩と呼ばれるものを導入し、それまで余り知られていなかった比較的新しいこの分野を広く宣伝することとなった。1948年にはエルデシュと独立に素数定理の初等的証明を発表した。しかし両者は直前まで共に討論共同研究していたこともあり、後に先取権あるいは貢献度に係る様々な噂が飛び交うこととなった。エルデシュと交流があったピーター・フランクルは著書『数学放浪記』の中でセルバーグが不正を行っていたと断言しているが、あくまでもエルデシュの視点が入っていることに注意が必要である。何れにせよこれらの業績に対し、1950年にフィールズ賞を受けた。

米国に移住後、1950年代にはプリンストン高等研究所に着任し、生涯を此処に勤めた。1950年代にはスペクトル理論の数論への応用に取り組み、特に跡公式を導き、彼の最も有名で後生の研究に影響の大きい仕事となった。これはコンパクトリーマン面のlength spectrumとラプラシアン固有値との間の双対性を確立するもので、素数とゼータの零点との間の双対性と類似した関係となっている。1986のウルフ賞数学部門を受賞した。

セルバーグはフィールズ賞及びウルフ賞の他に多くの殊勲を受け、Norwegian Academy of Sciences、the Royal Danish Academy of Sciences並びにthe American Academy of Arts and Sciencesにも選ばれた。

Ingrid 及び Lars の二子がおり、Ingrid Selberg は劇作家のMustapha Maturaと結婚した。

2007年8月6日、ニュージャージー州プリンストンの自宅で心不全のため90歳で死去した[1]。

分割数の値について、いくつかは オンライン整数列大辞典の数列 A000041 を参照。

p(1) = 1
p(2) = 2
p(3) = 3
p(4) = 5
p(5) = 7
p(6) = 11
p(7) = 15
p(8) = 22
p(9) = 30
p(10) = 42
p(100) = 190,569,292
p(200) = 3,972,999,029,388
p(1000) = 24,061,467,864,032,622,473,692,149,727,991 ≈ 2.4×1031.
2011年現在、知られている中でこの形で得られる最大の素数は、Bernardo Boncompagni が発見した[1] p(40100918) で、これは十進で 7047 桁の数値である。

分割函数をより扱いやすくする方法のひとつは、補助的な函数 p(k, n) を考えることである。これは少なくとも k 以上の自然数を用いて n を分割する方法の数を数えたもので、各 k に対して分割数を数えれば、次のいずれかの場合を見ればいいことになる。

最小の成分がちょうど k である。
最小の成分が k より真に大きい。
前者に当たる分割の総数は p(k, n − k) である。これをみるには、整数 n − k を少なくとも k よりもサイズの大きい整数への分割を全て一覧したものを考えて、その一覧の各分割に "+ k" することを考えればよい。

このことは、補助的な函数を使って分割数のある種の漸化式を定義することに利用できる。つまり


が成立する。ここで、 は床函数である。

後者に当たる分割の総数は p(k +1, n) である。これは各成分が k 以上の分割から、ちょうど kになる成分を含むようなものを除いた結果は、すべての成分が k + 1 以上になっていなければならないことからわかる。

さて、上記の二条件は互いに排他的であるから、n の分割の総数というのは、それぞれの場合をあわせた p(k + 1, n) + p(k, n − k) となっていることがわかる。したがって、再帰的に、補助的な函数

k > n のとき: p(k, n) = 0
k = n のとき: p(k, n) = 1
それ以外: p(k, n) = p(k+1, n) + p(k, n − k)
と定める。この函数は少し複雑な挙動を見せる傾向にある。

 

 

 

もともとの分割数 p(n) はちょうど p(1, n) にあたる。

いくつかの値については以下のとおり。

 
k
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
n
1
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2
2
1
0
0
0
0
0
0
0
0
3
3
1
1
0
0
0
0
0
0
0
4
5
2
1
1
0
0
0
0
0
0
5
7
2
1
1
1
0
0
0
0
0
6
11
4
2
1
1
1
0
0
0
0
7
15
4
2
1
1
1
1
0
0
0
8
22
7
3
2
1
1
1
1
0
0
9
30
8
4
2
1
1
1
1
1
0
10
42
12
5
3
2
1
1
1
1
1
 

分割数 p(n) の母函数は、次の式で与えられる。


右辺の各項を幾何級数として展開すれば、これは


と書くことができるが、ここから積をとって xnの項となるものを拾い出せば


を得る。ここで各数 i は ai 個ずつ現れる。これはまさに n の分割の定義そのものであるから、この無限積が求める母函数を与えることが確認できる。もっと一般に、整数 n の適当な集合 Aに属する整数への分割数の母函数も、上記の式の項の k を A の元となっているものにとることで得られる。この結果はオイラーによる。

オイラーによるこのような分割数の母函数の定式化は q-ポッホハマー記号の特別な場合であり、また多くのモジュラー形式の積の定式化(特にデテキント・イータ函数の)と近い関係にある。また、この母函数表示をオイラーの五角数定理と合わせれば、次のような漸化式


を得る。ここで p(0) = 1 および負の整数 k に対して p(k) = 0 とし、和は ½n(3n − 1) の形(ただし n は正または負の整数全体を走る)の一般五角数全体にわたってとるものとする(順に n = 1, −1, 2, −2, 3, −3, 4, −4 ..., とすると、値として 1, 2, 5, 7, 12, 15, 22, 26, 35, 40, 51, ... が得られる)。和における符号は交互に +, +, −, −, +, +, ... と続く。

ラマヌジャンは 4 または 9 で終わる整数に対する分割数に関して合同式


が成立することを発見したといわれる。例えば、整数 4 の分割数は 5 であり、整数 9 の分割数は 30、整数 14 の分割数は 135 といった具合である。ラマヌジャンはまた 7 および 11 に関する合同式


も発見している。さて、5, 7, 11 は連続する素数になっているので、次の素数 13 に対する同様の合同式 p(13k + a) ≡ 0 (mod 13) が適当な aのもと成立しそうなものだが、実際にはそうはなっていない。さらにいえば、p(bk + a) ≡ 0 (mod b) の形の合同式は 5, 7, 11 以外のどの素数 b に対しても成立しないことが示せる[2]。

1960年代にイリノイ大学シカゴ校のアトキンは、同様のいくつかの小さな素数を法とする合同式を発見している。例えば


のようなものが含まれる。2000年には、ウィスコンシン大学マディソン校の小野(Ken Ono)は任意の素数を法とする同様の合同式の存在を示した。さらに数年後、小野はイリノイ大学のスコット・アールグレンとともに、6 と互いに素なすべての整数を法とする分割数の合同式が存在することを証明している[3]。

A.ブライチャー:「ラマヌジャンの予言」、日経サイエンス、2014年9月号、頁67-72.
Amanda Folsom, Zachary A. Kent and Ken Ono:"l-Adic Properties of the Partition Function", Advances in Mathematics, v.229, No.3, pp.1586-1609 (Feb. 15, 2012).
Ken Ono and Larry Rolen:"Ramanujan's Mock Theta Functions", Proc. National Academy of Sci. USA, v.110, No.15, pp.5765-5768(Apr. 9, 2013). url="www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3625272".

分割数 p(n) の漸近表示は、


で与えられる。この漸近公式は、ハーディとラマヌジャンによって1918年に初めて見出され、また、それとは独立にウスペンスキー1920年に発見している。例えば p(1000) を考えると、漸近公式からだいたい 2.4402 × 1031 となることがわかるが、これは真の値とくらべても十分近い値である(真の値よりは 1.415% ほど大きい)。

1937年にラーデマッハーはハーディとラマヌジャンの結果に基づいて次の発散級数表示


を得ている。ただし


とおいた。この式の微分の箇所はもう少し簡単な形に直せる[4]。ここで、記号 (m, n) = 1 は mの値として n と互いに素であるものだけを考えることを意味する。また函数 s(m, k) はデデキント和である。ラーデマッハーの公式の証明はフォード円、ファレイ数列、モジュラー対称性およびデデキント・イータ函数などを主に使ってなされる。

2011年1月、小野とダルムシュタット工科大学のジャン・ヘンドリック・ブルーニエは、任意の自然数 n に対する p(n) を決定する有限で代数的な公式を得たと発表した[5][6]。

分割数は n の「五角数分割」上の和として表すことができる。


を n の五角数分割とする。ここに各 qm = m(3m− 1)/2 は一般五角数(GPN, 数列 A001318)で qM は n を超えない最大の GPN である。故に[7]


を得る。ここで


および


は多項係数である。p(n) に対する和の項の数は数列 A095699 で与えられる。例えば 8 = 7+1 = 5+2+1 = 5+1+1+1 = 2+2+2+2 = ... だから


となる。

自然数 n に対して p(n) は次の式で求められる。


つまり、p(n) は上記無限次元テープリッツ行列を n × n で止めた正方行列の行列式である。この行列の零でない成分は、一般五角数 qm 番目の行の先頭から斜め (diagonal) に配置され(主対角線のひとつ上側の成分 (superdiagonel) は仮想的に 0 番目の行からと考える)、その値が (−1)m+1 となっている。この行列式公式は、次の行列の間の関係式


に同値なのだが、この関係式自体は単に上述の母函数の間の関係式(と五角数定理)を行列の形にまとめたものである。

ラマヌジャンの公式[8]


を使えば、分割数 p(5k − 1) はより小さな k-次行列の行列式


として表すことができる。第一列の成分のなす数列は A000729 であり、最終列の(最初の 1 から)五つ毎に現れる非零成分のなす数列 (1, −5, 5, 10, −15, −6, …) は、数列 A000728 になっている(最終列はそれ以外の成分は全て零である)。例えば


同様のやり方で、残り二つのラマヌジャンの公式を使えば、分割数 p(7k − 2) および p(25k − 1) も k-次の行列式


と表すことができる。これらの行列の最初の列はそれぞれ A000731 および A010836 であり、最終列は次の展開


から得られる。例えば p(149) は


で計算できる。また、分割数の第 n-部分和は行列式


で与えられる。ただし、c0 = −1, c1 = 2, c2 = 0 かつ k > 2 に対しては


とする。相異なる整数成分への分割の分割数を q(n) と書けば(これは分割の項に述べるように奇数成分への分割の分割数とも等しく)、


が成り立つ。第一列は数列 A010815 で、最終列は 2qm + 1 行目の成分が (−1)m でそれ以外の成分は零である。