ハイパーカミオカンデ

ハイパーカミオカンデ (Hyper-Kamiokande) は、岐阜県飛騨市神岡町の旧神岡鉱山内に建設が予定されている超大型水チェレンコフ光検出装置である。2027年の実験開始を目指す[1][2]。
 
装置概要編集
岐阜県飛騨市神岡町の地下650mに大空洞を掘削して巨大な水槽を設置し、水槽の壁面に光センサーを取り付けて、水中で発生するチェレンコフ光をとらえる[3]。2015年の検討では高さ54m、幅48m、長さ247.5mの卵形断面形状を持つ巨大水槽2個を設置し、水槽にはスーパーカミオカンデの約20倍の約100万トンの超純水が蓄えられ、水槽の壁面には大型の超高感度光センサーを99,000本取り付ける計画であった[4]。その後計画規模が見直され、2015年の60m×74m26万トンタンク2基案を経て、センサー感度が2倍に向上し半分の水量でも同等の成果が得られるとの事象を踏まえ、2017年の時点では、高さ60m、直径74mの円筒形状を持つ巨大水槽に約26万トンの超純水を蓄え、内水槽の壁面に50cm径の超高感度光センサー40,000本、外水槽の壁面に20cm径の高感度光センサー6,700本を取り付ける計画となっている[3]。
 
目的編集
主な目的は、次の通り。

CP対称性の破れの測定
「T2K」も参照
茨城県東海村のJ-PARCの加速器によって作られたミューニュートリノビームおよび反ミューニュートリノビームをハイパーカミオカンデに打ち込み、それが電子ニュートリノもしくは反電子ニュートリノへと変化する確率の差を調べる。CP対称性がニュートリノと反ニュートリノの間で破れている場合、その破れに従ってニュートリノ振動の確率の差が現れることが予想される[5]。

ニュートリノ質量の順番の決定
宇宙線が地球の裏側の大気と衝突して生成されたニュートリノは、地球内部を通って検出器まで飛んでくる間に地球の物質の影響を受け、ミューニュートリノから電子ニュートリノへ、そして反ミューニュートリノから反電子ニュートリノへのニュートリノ振動の様子が変化する[注 1]。ハイパーカミオカンデでこの変化の様相を観測することにより、質量階層性が正常階層か逆階層かを測定することができる[6]。

宇宙ニュートリノの観測
太陽ニュートリノ、宇宙ニュートリノ背景、超新星爆発に伴うニュートリノなど、宇宙で発生する様々なニュートリノを観測することにより、天文学の発展に寄与する[7]。

陽子崩壊探索
大統一理論」および「陽子#陽子の崩壊」も参照
大統一理論では陽子が非常に長い時間をかけて崩壊することを予言しているが、カミオカンデ及びスーパーカミオカンデによる観測では2015年現在まで陽子崩壊は観測されず、陽子の寿命は1034年以上であると考えられている。ハイパーカミオカンデにおいても、陽子崩壊の観測が引き続き行われる。ハイパーカミオカンデは10年間の観測で、現在得られている下限値よりも1桁長い陽子の寿命まで感度があり、現在提唱されている様々な大統一理論のモデルの予言の大部分を検証することが可能である[8]。
 
建設計画編集
2014年2月28日、日本学術会議の「マスタープラン2014」において「重点大型研究計画」に選定された。建設費800億円、運転費30億円/年(15年間)を見込む[9]。2015年1月31日、千葉県柏市柏の葉カンファレンスセンターにて国際共同研究グループ結成記念シンポジウム及び調印式が開催された[4]。2026年度の観測開始を目指し、文部科学省は2019年度予算に調査費数千万円を概算要求に上げた[10]。2020年1月30日、ハイパーカミオカンデ計画の初年度予算35億円を含む2019年度補正予算が成立したことにより、ハイパーカミオカンデ計画が正式に開始されることとなった[2]。2021年5月28日、ハイパーカミオカンデの着工記念式典が岐阜県飛騨市神岡町の建設現場にて開催された[11]。
 
脚注編集
[脚注の使い方]
注釈編集
^ ニュートリノの質量階層性が正常階層の場合は電子ニュートリノの出現が強められ、逆階層の場合は反電子ニュートリノの出現が強められる
出典編集
^ “ハイパーカミオカンデ”. ハイパーカミオカンデ. 2019年11月2日閲覧。
^ a b “ハイパーカミオカンデ計画の開始について”. 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設 (2020年2月12日). 2020年2月13日閲覧。
^ a b “検出器の特徴”. ハイパーカミオカンデ. 2017年11月5日閲覧。
^ a b “素粒子の謎解明へハイパーカミオカンデ始動”. マイナビニュース (2015年2月5日). 2015年6月21日閲覧。
^ “CP対称性の破れの測定”. ハイパーカミオカンデ. 2015年6月19日閲覧。
^ “ニュートリノ質量階層性の決定”. ハイパーカミオカンデ. 2015年6月19日閲覧。
^ “宇宙ニュートリノの観測”. ハイパーカミオカンデ. 2015年6月19日閲覧。
^ “陽子崩壊探索”. ハイパーカミオカンデ. 2015年6月19日閲覧。
^ 第22期学術の大型研究計画に関するマスタープラン(マスタープラン2014), 日本学術会議, (2014-02-28), p. 70 2015年6月19日閲覧。
^ “次世代「カミオカンデ」建設へ 3度目ノーベル賞狙う - 宇宙・物質の起源に迫る”. 日本経済新聞(日本経済新聞社). (2018年8月24日) 2018年8月26日閲覧。
^ “ハイパーカミオカンデの着工記念式典を開催〜2027年の実験開始を目指す〜”. ハイパーカミオカンデ. (2021年5月28日) 2021年6月1日閲覧。
 
関連項目編集
ニュートリノ検出器
カミオカンデ(跡地に建設:カムランド
スーパーカミオカンデ
東京大学宇宙線研究所
高エネルギー加速器研究機構
ニュートリノ天文学
浜松ホトニクス - 光電子増倍管の製造・納入メーカー
 
外部リンク編集
東京大学宇宙線研究所付属神岡宇宙素粒子研究施設
ハイパーカミオカンデのパンフレット2014.12
ハイパーカミオカンデのパンフレット2017.05
ハイパーカミオカンデのパンフレット2018.12
ハイパーカミオカンデのパンフレット2020.09
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レポート

「ハイパーカミオカンデ」が着工、宇宙の運命と人類の根源的な問いに挑戦
2021/06/03 07:30

2021/06/07 11:29
著者:鳥嶋真也
 
 
 

 

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目次
1スーパーからハイパーへ、超大型水チェレンコフ観測装置のすべて
ニュートリノカミオカンデ
ハイパーカミオカンデ
2人はどこから来てどこに行くのか? ハイパーカミオカンデが挑む3つの謎
ハイパーカミオカンデが目指すサイエンス
ニュートリノ振動研究
ニュートリノ天文学
陽子崩壊の探索
東京大学宇宙線研究所などは2021年5月28日、超大型水チェレンコフ観測装置「ハイパーカミオカンデ」を着工したと発表した。

実験開始は2027年の予定。ニュートリノの質量の発見を成し遂げ、2015年のノーベル物理学賞の受賞につながった「スーパーカミオカンデ」の後継装置にあたり、これまでにないほど高い精密、そして大規模な研究を行うことを可能としている。その性能を活かし、この宇宙や物質すべての理にまつわる謎の解明に挑む。

ハイパーカミオカンデのイラスト (C) ハイパーカミオカンデ研究グループ

ニュートリノカミオカンデ
ハイパーカミオカンデ(Hyper-Kamiokande)は、東京大学高エネルギー加速器研究機構(KEK)が中心となり、世界19か国の研究機関が協力して計画を進めている超大型水チェレンコフ観測装置である。

観測するのは「ニュートリノ」と呼ばれる「素粒子」である。この宇宙にあるすべての物質は、素粒子という目には見えないきわめて小さな粒子から構成されており、ニュートリノはその素粒子の仲間のひとつである。


ニュートリノは太陽活動や超新星爆発、原子炉などから多数出ており、私たちの体を光の速さで、1秒間に数百兆個も突き抜けている。しかし、ニュートリノ電荷をもたないことから、他の物質とほとんど反応することはない。そのため、私たちは何も感じられないどころか、観測も非常に難しい。ニュートリノの概念は1930年には考え出されていたが、その性質は長い間謎に包まれていた。

その後、1950年には原子炉から出るニュートリノを、1970年代には太陽からのニュートリノの観測に成功した。そして1987年には、故・小柴昌俊氏らが開発したニュートリノ観測装置「カミオカンデ」によって、超新星爆発からのニュートリノの観測に成功。これによりニュートリノで宇宙を観測する「ニュートリノ天文学」という学問の幕が開き、その成果が讃えられ、2002年には小柴氏らにノーベル物理学賞が贈られた。

さらに1996年には、カミオカンデからやや離れたところに、「スーパーカミオカンデ」という新しい観測装置が完成。それまでニュートリノは質量をもたないと考えられていたが、梶田隆章氏らの研究の結果、ニュートリノが質量をもつことを示す「ニュートリノ振動」という現象を発見。梶田氏らはこの功績から、2015年のノーベル物理学賞を受賞した。

しかし、ニュートリノそのものに関する謎はまだまだ尽きないうえに、ニュートリノを使って宇宙を観測するニュートリノ天文学はますます重要性を帯びてきている。そこで、スーパーカミオカンデよりもさらに高性能な観測装置として、ハイパーカミオカンデが開発されることになった。

ハイパーカミオカンデ
ハイパーカミオカンデが建設されるのは、岐阜県飛騨市神岡町の旧神岡鉱山内である。やや離れた同じ山中には、カミオカンデ(現在のカムランド)、スーパーカミオカンデもあり、また重力波望遠鏡「KAGRA」も位置している。この山中は岩盤が硬く、温度などの環境が安定していることが、それぞれの観測装置にとって大きなメリットとなっている。


ハイパーカミオカンデは、この山中の地下約650mに、直径68m、高さ71mという広大な円筒形の空洞を掘り、そこに水槽を設置。その中に約26万tもの、超純水と呼ばれるきわめて純粋な水を入れ、そして水槽の壁面に「光電子増倍管」と呼ばれる光を検出するセンサーを設置することで造られる。

ニュートリノや、「陽子崩壊」という現象(詳しくは後述)から生じる荷電粒子が水槽内の水と衝突すると、チェレンコフ光という微弱な光が発生する。この光を光電子増倍管で捉えることで、ニュートリノや陽子崩壊の検出、識別、エネルギーや位置の測定を行う。

検出の原理自体は、カミオカンデスーパーカミオカンデでも共通しているが、ハイパーカミオカンデでは、これまで日本がつちかってきた高い実験技術にくわえ、体積はスーパーカミオカンデの約10倍になる。さらに光センサーも新型になり、光の検出効率、光量の測定精度、時間の測定精度といった基本的な性能がどれも約2倍程度まで向上し、さらに体積が大きくなったことも相まって、設置数も1万1000本から4万本へと大きく増える。

これにより、これまでにないほど高い精密、そして大規模な研究を行うことができ、実験チームによると「スーパーカミオカンデの100年分のデータが、ハイパーカミオカンデでは約10年で得られる」という。

ハイパーカミオカンデは、2019年度の補正予算成立により2020年2月に正式に計画が開始。2020年度中には、総長96mの新設調査坑道と総長725mのボーリングの掘削を行い、岩盤の状態を詳しく確認する大規模な調査が行われたほか、工事の拠点となるヤードの建設が行われた。

そして、今年5月6日には工事用トンネルの掘削が開始。トンネル工事は今年度いっぱい続く予定で、2022年度からいよいよ空洞の掘削が始まり、完了後は水槽の建設や光センサーの取り付け、そして超純水の注水などを行う。


また、新型光センサーは2020年度から製造が始まっており、現在は安全に長期間安定して使用するための確認と性能測定を行っている段階だという。

工事の完了、光センサーの製造完了はそれぞれ6年後の予定で、2027年度からの実験開始を目指している。

地質調査の様子 (C) ハイパーカミオカンデ研究グループ
トンネル採掘の様子 (C) ハイパーカミオカンデ研究グループ
新型光センサー (C) ハイパーカミオカンデ研究グループ
着工にあたり、ハイパーカミオカンデ実験代表者の塩澤眞人教授は「ハイパーカミオカンデの構想は1998年ごろに立ち上がり、もう20年以上経っています。なかなか予算がつかず苦労しましたが、計画が現実的になり、国内外の研究メンバーも増え、今回着工できたのは大きな達成感があります」と述べた。

そして「これから大事なのは、計画どおりに建設をしっかり進め、装置の性能をしっかり出すこと。建設を無事に終わらせ、いいサイエンスの研究成果を出していきたいです。早くデータが見られることを楽しみにしています」と期待を述べた。

また、「米国ではすでに、『DUNE』というハイパーカミオカンデに似た研究、実験計画が進んでいます。ハイパーカミオカンデより3年早く予算が成立し、建設が始まっていますが、科学の成果は私たちのほうが先に出せるよう、負けないように目指していきます」と、意気込みを語った。

13ヵ国からなる,ハイパーカミオカンデ国際共同研究グループが結成
2015年02月06日 カテゴリ:その他 ,ニュース ,光関連技術
ハイパーカミオカンデ用に開発中の超高感度光センサ。左は半導体電子増幅素子を内蔵したハイブリッド型光センサで,右は高性能電子増幅電極構造を持つ光センサ。下はそれぞれの電子増幅部のもの。
1月31日,千葉県柏市柏の葉カンファレンスセンターにて,ハイパーカミオカンデ国際共同研究グループ結成記念シンポジウム及び調印式が開催された(ニュースリリース)。ハイパーカミオカンデ計画は,これまで日本で培われてきた高度なニュートリノ実験技術をもとにスーパーカミオカンデの10倍スケールのニュートリノ検出器を新たに建設し,J-PARCの大強度ニュートリノビームと組み合わせることにより,「素粒子の統一理論」および「宇宙における物質の起源と進化の謎」に挑戦するもの。

当日は,ハイパーカミオカンデ計画を国際的に推進するための共同研究グループ結成を記念したシンポジウムが開催された。さらに,東京大学宇宙線研究所と高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所は,ハイパーカミオカンデ計画の具体化に向けた検討についての協力協定を交わすことを決定し,調印式をとり行なった。

ハイパーカミオカンデ計画では,スーパーカミオカンデに代わる100万トン級大型水チェレンコフ検出器を建設する。水槽内部には,スーパーカミオカンデのものより50%感度を高めた,世界最大の超高感度・高精度光センサが設置される。これは建設費を抑制しつつ巨大実験装置を実現する,重要な要素の一つとなる。

さらに,J-PARCからの大強度ニュートリノビームを用いて,ニュートリノの質量や混合の全貌を明らかにすることを目指す。特にニュートリノにおけるCP対称性(粒子・反粒子対称性)の破れの発見と共に,素粒子大統一理論に迫る陽子崩壊の世界初の発見を目指す。

また,ニュートリノ反応の研究,大気ニュートリノ観測,宇宙ニュートリノ観測,ニュートリノ天文学を総合的に展開し,素粒子物理学の新たな展開と,原子核物理学,宇宙物理学,天文学に新たな知見をもたらすことを目指す。国際研究プロジェクトとして世界の研究者が協力し,2025年の実験開始を目指している。

関連記事「KEK,反ニュートリノビーム運転に同期した事象をスーパーカミオカンデにて観測」「名大,チェレンコフ光を高空間分解能で画像化することに成功」「浜松ホトニクスの「20インチ光電子増倍管」,IEEEマイルストーンに認定」